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残念な国(10-c)―それは地球市民のための憲法だった

日本会議的改憲へのアリバイ作りのための選挙が終わった.
案の定の結果は平成版大政翼賛会発足の前夜祭でもあろう.
早速,野党勢力の発言力を抑え込む動きが始まった.
与党と政府が一体であるような仕組みにおいてこそ,
意見を違える人たちへのより丁寧な対話(断じて「丁寧な説明」ではない!)が必要だというのに.
www.asahi.com

麻生君など,勝てたのは北朝鮮のおかげだ,などと仰っておられるそうで.
まぁ安倍君とその仲間たち同様,調子に乗ってつい本音を語ってしまうイイヤツなのかもしれない.

「明らかに北朝鮮のおかげもありましょうし,
いろんな方々がいろんな意識をお持ちになられたんだろう.
特に日本海側で遊説をしていると,つくづくそう思った.」
2017/10/26 議員パーティー

www.sankei.com

しかしこれでまた,聞かれたことに答えず,聞かれてないことを滔々と喋る御スガタが拝めますね.
そうそう,「枯れ草の山に火を点けたかのようにぺらぺらと」って誰か書いてたっけ.
あ,野党の質問時間短くなるからそれも減ってしまうか.

 この数年間,安倍晋三という人の印象はただただ喋(しゃべ)るということだった.
枯れ草の山に火を点(つ)けたかのようにぺらぺらぺらと途切れなく軽い言葉が出てくる.
対話ではなく,議論でもなく,一方的な流出.機械工学で言えばバルブの開固着であり,
最近の言い回しを借りればダダ洩(も)れだ.
 安倍晋三は主題Aについて問われてもそれを無視して主題Bのことを延々と話す.
Bについての問いにはCを言う.弁証法になっていないからアウフヘーベンもない.

www.asahi.com

ダダ洩れ.あぁ,そうだったね.
あれから何度も漏れてたけど,"The situation is under control."と言いきってたもんね.
www.kantei.go.jp



選挙のとき決して安倍君は改憲話に決して触れなかったけど,実際は日本会議的改憲への布石.
もちろん改憲そのものはすべきところはすべきだろう,と改めて思っている.
実質的に立法と行政が一体となってしまっているこの国において,
枝野君の云う「解散権制約」はもっともな点だ.
www.sankei.com
しかし,何より日本会議的改憲だけは何としても避けたい.
実質的に日本会議改憲草案である自民党改憲草案では「個人」から「個」を奪う,
つまりは個人の尊厳を保障しない.
大日本帝国憲法を彷彿とさせるこの変更が何より恐ろしい.そんなことをちょっと前に書いた.
tokidoki.hatenablog.jp
そしてそれに呼応するように憲法前文が書き換えられる.実に軽い,稚拙な前文に.
tokidoki.hatenablog.jp
なぜなら,現行憲法の根幹である三原則を書き換えるからであり,
「個人」の「個」を取りたがるのは明治時代の家父長制を復活させたいからに他ならない.
それが日本人本来の姿なのだと信じて疑わない人たちによる案だから.

f:id:okiraku894:20160718174419j:plain:h400 f:id:okiraku894:20160718174420j:plain:h400
「あたらしい憲法草案の話」より

あたらしい憲法草案のはなし

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安倍君は現行憲法を「みっともない」と言い切る.
だからこそ,立て続けに「特定秘密保護法案」や「テロ等準備罪」が
憲法など無きが如き傍若無人なやり口で成立できてしまった.
www.asahi.com
安倍君は例の軽口で「押し付け憲法」と言い切る.
そして政治家が何かを言い切るときこそアヤシイことは"under control"発言を思い出せばいい.

GHQ草案には「平和」の文字は無かった.
戦力不保持という消極的原案に対し,先人たちの並々ならぬ尽力によって
「国際平和を誠実に希求」するという形での積極的平和主義へと漕ぎ着けたのだった.
他ならぬ日本人自身の手によって確かに作られた憲法なのであった.
www.nhk.or.jp
f:id:okiraku894:20160702170121p:plain

現行の憲法前文は理想論だ.しかしそれはとてつもなく偉大な理想論だ,と思う.
日本国民に対しての進むべき道が書いてある,というより
もっと全地球的な,地球市民が目指すべき道が書いてあるのだ.
そういった意味で現行憲法は世界でもなかなか特異なものだとも思う.
このゴツゴツとした,訥々とした,しかし誠実な前文は,
いつの日か世界が共有してしかるべきもののように思うのだ.
もう一度書くけれど,日本会議草案の「学級目標憲法」とは,
その広さと奥行と深さにおいて全く次元が違うのだ.
tokidoki.hatenablog.jp

だから安倍君の云う「ウツクシイ クニ」は「ニクイシ クツウ」,まっぴらごめんなんだよ.

新しい国へ 美しい国へ 完全版 (文春新書 903)

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日本国憲法 前文


日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,
われらとわれらの子孫のために,諸国民との協和による成果と,
わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し,
政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し,
ここに主権が国民に存することを宣言し,この憲法を確定する.
そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,その権威は国民に由来し,
その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する.
これは人類普遍の原理であり,この憲法は,かかる原理に基くものである.
われらは,これに反する一切の憲法,法令及び詔勅を排除する.
日本国民は,恒久の平和を念願し,
人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて,
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,
われらの安全と生存を保持しようと決意した.
われらは,平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を
地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において,名誉ある地位を占めたいと思ふ.
われらは,全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,
平和のうちに生存する権利を有することを確認する.
われらは,いづれの国家も,自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて,
政治道徳の法則は,普遍的なものであり,
この法則に従ふことは,自国の主権を維持し,
他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる.
日本国民は,国家の名誉にかけ,
全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ.

もう一度書いておこう.

 山は樹を以て茂り
 国は人を以て盛なり
       吉田 松陰

個人の存在根拠を国が認めないのなら,やがてその国は亡ぶと思う.

こんなところに Cayley-Hamilton

4年ゼミの話題の一つが,細矢氏が提案するトポロジカルインデックスなんだが,

その中にちょっと「おやっ」となった計算があったので,その紹介と種明かし.

ピタゴラス数を生成する行列にまつわる連立漸化式
\begin{equation}
\begin{pmatrix}
a_{n+1}\\
b_{n+1}\\
c_{n+1}
\end{pmatrix}
=
A\begin{pmatrix}
a_n\\
b_n\\
c_n
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 2\\
2 & 1 & 2\\
2 & 2 & 3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
a_n\\
b_n\\
c_n
\end{pmatrix}
\end{equation}
から一種類の文字に関する漸化式
\begin{equation}
a_{n+3}=5a_{n+2}+5a_{n+1}-a_n
\end{equation}
等を導く件.本書では
\begin{equation}
\sigma a_n=a_{n+1}
\end{equation}
なる線形作用素を持ち出して
\begin{equation}
\sigma\begin{pmatrix}
a_n\\
b_n\\
c_n
\end{pmatrix}
=A\begin{pmatrix}
a_n\\
b_n\\
c_n
\end{pmatrix},
\end{equation}
すなわち
\begin{equation}
(\sigma I-A)
\begin{pmatrix}
a_n\\
b_n\\
c_n
\end{pmatrix}
=\textbf{0}
\end{equation}
(Iは単位行列)がnontrivialな解をもつことから
\begin{equation}
\det(\sigma I-A)=\sigma^3-5\sigma^2-5\sigma+1=0
\end{equation}
が導かれるので
\begin{equation}
(\sigma^3-5\sigma^2-5\sigma+1)a_n=a_{n+3}-5a_{n+2}-5a_{n+1}+a_n=0
\end{equation}
なる漸化式が得られる,とある.
作用素\sigmaをあたかも数のように扱って議論しているわけだ.
はて,こんな扱いかた,妥当なんだろうか???



数日悩んだけど,何だか分かったので備忘録.
線形代数でいうところのCayley-Hamiltonの定理の証明を真似をすれば良い.
その証明は特性多項式を
\begin{equation}
p(\lambda)=\det(\lambda I-A)
\end{equation}
とし,(\lambda I-A)の余因子行列を\tilde{A}(\lambda)とおけば
\begin{equation}
\tilde{A}(\lambda)(\lambda I-A)=p(\lambda)I
\end{equation}
となるところから始まる.
さて,この両辺はともに\lambdaの多項式を成分とする行列なので,\lambdaへ作用素\sigmaを代入しても大丈夫.
すると
\begin{equation}
p(\sigma)\begin{pmatrix}
a_n\\
b_n\\
c_n
\end{pmatrix}
=\tilde{A}(\sigma)(\sigma I-A)
\begin{pmatrix}
a_n\\
b_n\\
c_n
\end{pmatrix}
=\textbf{0}
\end{equation}
となって,確かに作用素としての等式
\begin{equation}
p(\sigma)=\det(\sigma I-A)=0
\end{equation}
が得られる.なるほどね.
因みにa_n,b_nは役割が対称なので新たにd_n=a_n+b_nとおけば,
\begin{equation}
\begin{pmatrix}
d_{n+1}\\
c_{n+1}
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
3 & 4\\
2 & 3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
d_n\\
c_n
\end{pmatrix}
\end{equation}
と書けるので,今度は
\begin{equation}
\begin{vmatrix}
3-\sigma & 4\\
2 & 3-\sigma
\end{vmatrix}
=\sigma^2-6\sigma+1=0,
\end{equation}
すなわち
\begin{equation}
(\sigma^2-6\sigma+1)c_n=c_{n+2}-6c_{n+1}+c_n=0
\end{equation}
なる漸化式が得られる.

残念な国(10-b)―我々「こんな人たち」のレジスタンス

確か,中学生だったか高校生だったかの頃に「1984年」を読んだ.
ディストピア小説の代表だろう.

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

個人の表現の自由はおろか,極めて内的な心情にすら政府が介入する世界.
そもそも批判的な思考すら起こさせないよう,政府がNewspeakなる人造言語を普及させている.
さながら漏れ聞こえてくる朝鮮民主主義人民共和国の市民生活だったり,
「気付いてしまった人たち」を弾圧する中華人民共和国の行き着く先のようであり,
かつての戦時中の,市民レベルで互いを密告をし合っていた大日本帝国のようである.

戦争は平和である (WAR IS PEACE)
自由は隷属である (FREEDOM IS SLAVERY)
無知は力である (IGNORANCE IS STRENGTH)

「Big Brother」率いる一党支配の世界.これがその党のスローガンである.
考えれば考えるほど分からなくなる言葉なんだが,
つまるところ,考えることを止めさせる言葉なんだ.
考えちゃいけない,ただただ熱狂的に唱和するのだ.
ああ!ちょっと前にもそんな言葉が某大国で流行ったっけ!!

We Will Make America Great Again!



さてさて極めて幸いなことに,まだこの国では自由にモノが言える.
そう,目立たない程度に発言する限りは.

そしてまだ幸いなことに,最高権力者の,
「人間らしく,ついやっちまった」無様な御スガタを拝む機会がある.

「こんな人たちに皆さん,私たちは負けるわけにはいかない」

f:id:okiraku894:20170930100140j:plain

「自由は隷属」であり「無知は力」であるあのディストピアにおいては,
確かに"何も感じず,考えない"人たち,
あるいは"感じること,考えることをやめた"人たち,
体制に身の全てを委ねた人たちにはユートピアなのかもしれない.
だからそのユートピアを蝕む,"感じ考えてしまうメンドクサイ人たち"を
鬱陶しく思うのだろうなぁ.
例えばネトウヨによるパヨク叩きは,そういうことなんだろうと.
権威者である市民が思考停止して権力者に隷属するのは如何なものかと思うのだけどね.



さて,かく云う私は「こんな人たち」側の人間である.
本日投開票される結果如何によっては平成版大政翼賛会が生まれかねない.
そうなったとき一番危惧しているのが日本国憲法の「前文」が書き換えられてしまうことだ.
改憲論議でふつう皆が注目する九条のほうではなくて,だ.
あるいは,第十三条において,「個人」を「人」に書き換えてしまうことだ.

日本国憲法 第十三条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


自民党改憲草案 第十三条
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない

この変化が,九条論議よりも遥かに差し迫った身近な危険な動きなのだということを
一体どれくらいの人が分かっているのだろう.
「個人」から「人」へ.たった一文字なんだけど,この変化がとても恐ろしい.
なんなら,「人」と書かれていたものが「ヒト」に変わったらどうだろう?
「個人」→「人」→「ヒト」.
個々人が持つ精神性が次第に失われ,単なる生物学的な「分類」へと変わっていく.
一人の人間としての尊厳というものが失われていくじゃないか.
そして実際それと呼応するように条文の後半において
「公共の福祉に反しない限り」から「公益及び公の秩序に反しない限り」へと,
「個人」の領域を制限する文言へと変わっているではないか.
そんな新しい憲法のもとで何がおこるだろうか?とちょっと想像してみる.

かつて「非国民」という言葉によって物思う人たちが弾圧されたように,
ユートピア側の人たちが掲げる「他人の迷惑」という錦の御旗のもと,
感じ考えてしまう人たちが社会的に弾圧されてしまうことだろう.
というのもユートピア側の人たちは多様性のある社会をお好みではないのだから.

あれ,まてよ."ユートピア側"なんて言葉を使ったんじゃ,
「こんな人たち」と言ってる安倍君と変わらないじゃないか!
そうだ,右や左なんて言ってる場合じゃない,我々は前に進まねばならないのだ!

「党を立ち上げたのは多くのみなさんに『枝野、立て』と背中を押していただいたからだ。主権者の声が立憲民主党を作った原動力だ。『右』や『左』は20世紀の古い考え方だ。上からの政治か、草の根の声に寄り添った本当の民主主義かが問われている。右でも左でもなく前へ進む新しい選択肢を掲げたい。一緒に進んでほしい。私にはあなたの力が必要だ。」
立憲民主党・枝野幸男 街頭演説より

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tokidoki.hatenablog.jp

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バランスをとる数(2)ー連分数という力学系

ミイラ取りがすっかりミイラになった感のある前回のエントリー.
tokidoki.hatenablog.jp

前回の結果はまとめると
\begin{equation}
2\sum_{k=a}^x k=\sum_{k=a}^b k
\end{equation}
を満たす組(a,b,x)は互いに素なp,qによって,p,q何れかが偶数なら
\begin{equation}
(a,b,x)=\left((p+q)^2-2q^2,(p+q)^2-2p^2,p^2+q^2\right),
\end{equation}
何れも奇数なら
\begin{equation}
(a,b,x)=\left(\frac{(p+q)^2-2q^2}{2},\frac{(p+q)^2-2p^2}{2},\frac{p^2+q^2}{2}\right)
\end{equation}
と表されるということだった.こうしてあらゆる解がパラメータp,qで表現できると分かったものの,特定の解だけ抜き出そうとするとそれはそれでまた話が膨らむようなのだ.例えばa=1と固定した場合,どのようなp,qならば
\begin{equation}
(p+q)^2-2q^2=1
\end{equation}
を満たすだろうか?といった問題に変わる.
実はこの話,ラマヌジャンが直感的に解いたという逸話があるそうで,それは
\begin{equation}
2\sum_{k=1}^x k=\sum_{k=1}^b k
\end{equation}
の解(b,x)\sqrt{2}の連分数展開を使って求める話だなのだが,先に進む前に今回は連分数展開の力学系としての私なりの解釈を書き留めておこうと思った.というのも連分数が出てくる度,その見方を思い出すのに時間がかかってきたからだ.



無理数\alpha>0の連分数展開が
\begin{equation}
\alpha=[a_0;a_1,a_2,\dots]=a_0+\frac{1}{a_1+\displaystyle\frac{1}{a_2+\cdots}}
\end{equation}
となっているとする.これは帰納的に
\begin{equation}
\alpha_{n}=a_n+\frac{1}{\alpha_{n+1}},\ a_n=\lfloor\alpha_n\rfloor
\end{equation}
つまり
\begin{equation}
\alpha_{n+1}=\frac{1}{\alpha_n-a_n},\ \alpha_0=\alpha
\end{equation}
とも表せる.要するに
\begin{equation}
T(x)=\frac{1}{x-\lfloor x\rfloor}
\end{equation}
なる力学系を考えているに他ならない.が,近似分数を思うならば,これを分母分子を意識した形で書き直したい.傾きxを傾き\displaystyle\frac{1}{x-a}に移す2次元の変換として捉えることを考えよう.なおa=\lfloor x\rfloorとした.もちろんそのような変換はスカラー倍だけ自由度があるが,標準基底をe_1=(1,0),e_2=(0,1)として
\begin{equation}
e_1+xe_2=(e_1+ae_2)+(x-a)e_2=e'_2+(x-a)e'_1
\end{equation}
なる変換,つまり
\begin{equation}
(e_1\ e_2)\mapsto (e'_1\ e'_2)=(e_1\ e_2)\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a \end{pmatrix}
\end{equation}
ならば図形的にもやっていることが分かりやすい.

したがって\alphaの連分数展開[a_0;a_1,a_2,\dots] は基底変換
\begin{equation}
(e_1\ e_2)\mapsto(e'_1\ e'_2)=(e_1\ e_2)\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_0 \end{pmatrix}\\
(e'_1\ e'_2)\mapsto(e''_1\ e''_2)=(e'_1\ e'_2)\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_1 \end{pmatrix}
=(e_1\ e_2)\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_1 \end{pmatrix}
\end{equation}
を繰り返していく操作と読み替えられる.さらにn回目の基底変換では
\begin{equation}
(e^{(n)}_1\ e^{(n)}_2)=(e^{(n-1)}_1\ e^{(n-1)}_2)\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_{n-1} \end{pmatrix}
=(e_1\ e_2)\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_0 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_1 \end{pmatrix}\cdots
\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_{n-1} \end{pmatrix}
\end{equation}
と書けるのでe^{(n)}_1=e^{(n-1)}_2が分かる.さらに
\begin{equation}
e^{(n+1)}_2=e^{(n)}_1+a_ne^{(n)}_2=a_ne^{(n)}_2+e^{(n-1)}_2,
\end{equation}
したがって
\begin{equation}
e^{(n+1)}_1=e^{(n)}_2=e^{(n-1)}_1+a_{n-1}e^{(n-1)}_2=a_{n-1}e^{(n)}_1+e^{(n-1)}_1
\end{equation}
と書けるのでe^{(n+1)}_1=e^{(n)}_2=p_ne_1+q_ne_2と表せば,近似連分数に関する漸化式
\begin{equation}
q_{n+1}=a_nq_n+q_{n-1}
\end{equation}
および
\begin{equation}
p_{n+1}=a_{n-1}p_n+p_{n-1}
\end{equation}
が得られる.こうして近似分数
\begin{equation}
\frac{q_n}{p_n}=[a_0;a_1,a_2,\dots,a_{n-1}]
\end{equation}
にたどり着く.



ところで この行列表示
\begin{equation}
(e^{(n)}_1\ e^{(n)}_2)
=(e_1\ e_2)\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_0 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_1 \end{pmatrix}\cdots
\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_{n-1} \end{pmatrix}
=(e_1\ e_2)\begin{pmatrix} p_{n-1} & p_n\\ q_{n-1} & q_n \end{pmatrix},
\end{equation}
連分数近似に関する諸性質が容易に得られるのが嬉しい.例えば行列式が
\begin{equation}
\begin{vmatrix} p_{n-1} & p_n\\ q_{n-1} & q_n \end{vmatrix}
=\begin{vmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_0 \end{vmatrix}
\begin{vmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_1 \end{vmatrix}\cdots
\begin{vmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_{n-1} \end{vmatrix}
=(-1)^n
\end{equation}
となって,
\begin{equation}
p_{n-1}q_n-p_nq_{n-1}=(-1)^n
\end{equation}
が得られ,隣接近似分数の距離が
\begin{equation}
\left|\frac{q_n}{p_n}-\frac{q_{n-1}}{p_{n-1}}\right|=\left|\frac{p_{n-1}q_n-p_nq_{n-1}}{p_np_{n-1}}\right|=\frac{1}{p_np_{n-1}}
\end{equation}
と分かる.あるいはこの行列表示を転置すると
\begin{equation}
\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_{n-1} \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_{n-2} \end{pmatrix}\cdots
\begin{pmatrix} 0 & 1\\ 1 & a_0 \end{pmatrix}
=\begin{pmatrix} p_{n-1} & q_{n-1}\\ p_n & q_n \end{pmatrix},
\end{equation}
となるが,これは連分数[a_{n-1};a_{n-2},\dots,a_0]に対応するから
v[a_{n-1};a_{n-2},\dots,a_0=\frac{q_n}{q_{n-1}}
\end{equation}
が分かり,同時に行列表示の第一列の意味を考えれば
\begin{equation}
[a_{n-1};a_{n-2},\dots,a_1]=\frac{p_n}{p_{n-1}}
\end{equation}
も分かる.

バランスをとる数(1)―入り口は1+2=3


いまや当大学における絶滅危惧レッドリストの筆頭に挙げられる数学同人Sigmaでのある一幕.
https://aue-sigma.jimdo.com/
www.aichi-edu.ac.jp

久しぶりに教育実習から返ってきたメンバーが「実習中にこんなこと見つけた」と鼻息荒く話していた話題なんだが,それは例えば
\begin{align}
1+2&=3\\
4+5+6&=7+8\\
9+10+11+12&=13+14+15\\
16+17+18+19+20&=21+22+23+24
\end{align}
といった連続整数の和についての等式だった.つまり一般に

\displaystyle
\displaystyle\sum_{k=0}^a (a^2+k)=\sum_{k=a+1}^{(a+1)^2-1}(a^2+k)
ということだ.あるいは
\begin{equation}
\displaystyle2\sum_{k=0}^a (a^2+k)=\sum_{k=0}^{(a+1)^2-1}(a^2+k)
\end{equation}
と言い換えても良い.そしてこれは任意の自然数aについて確かに正しいことが計算すれば分かる.


さて,本当の遊びはここからだ.では一般に
\begin{equation}
\displaystyle2\sum_{k=a}^x k=\sum_{k=a}^b k
\end{equation}
となるような自然数a\le x\le bの組はどんなものだろうか?計算すれば
\begin{equation}
2(x-a+1)(x+a)=(b-a+1)(b+a)
\end{equation}
すなわち
\begin{equation}
2(2x+1)^2=(2a-1)^2+(2b+1)^2
\end{equation}
となる.X=2x+1,A=2a-1,B=2b+1と置けば奇数A,X,Bの組で
\begin{equation}
A^2+B^2=2X^2
\end{equation}
を満たすものを探せということになる.あるいはs=\frac{A}{X},t=\frac{B}{X}と置けば,
\begin{equation}
s^2+t^2=2
\end{equation}
を満たす有理点(s,t)で,分母分子共に奇数になっているものを探せ,ということになる.


そこでとりあえず有理点(s,t)を探すわけだが,例えば(s,t)=(\pm1,\pm1)などがすぐ見つかる.
図形的に見やすい(-1,-1)を足がかりに,有理数m>0を傾きとする直線 t=m(s+1)-1s^2+t^2=2 の交点を考えよう.
すでに(-1,-1)が交点,すなわちこの二式の連立の解なので,2次方程式
\begin{equation}
s^2+(m(s+1)-1)^2=2
\end{equation}
(s+1)で括られ,残りの解が
\begin{equation}
\displaystyle s=\frac{1+2m-m^2}{m^2+1},t=\frac{m^2+2m-1}{m^2+1}
\end{equation}
と得られる.あとはm=\frac{q}{p}と既約分数で表示したとき,s,t共に\frac{\text{奇数}}{\text{奇数}}となっているかを確認すればよい.計算すると
\begin{equation}
s=\displaystyle\frac{p^2+2pq-q^2}{p^2+q^2},t=\frac{q^2+2pq-p^2}{p^2+q^2}
\end{equation}
となり,p,q いずれか一方のみが奇数なら分母分子共に奇数,p,qいずれも奇数ならば
\begin{equation}
p^2+q^2\equiv p^2+2pq-q^2\equiv q^2+2pq-p^2\equiv 2\pmod{4}
\end{equation}
となるため,約分すればやはり分母分子共に奇数と分かる.


こうして任意の有理数mに対する組(s,t)が求めるもの全てとなり,更にp,qいずれか一方のみ奇数ならば
\begin{equation}
A=p^2+2pq-q^2,B=q^2+2pq-p^2,X=p^2+q^2,
\end{equation}
p,q共に奇数ならば
\begin{equation}
A=\displaystyle \frac{p^2-q^2}{2}+pq,B=\frac{q^2-p^2}{2}+pq,X=\frac{p^2+q^2}{2}
\end{equation}
と得られる.


もっとも,元の問題に立ち戻れば自然数和を考えていたので,
\begin{equation}
A=p^2+2pq-q^2=(p+q)^2-2q^2\ge 0
\end{equation}
\begin{equation}
B=q^2+2pq-p^2=(p+q)^2-2p^2\ge 0
\end{equation}
という条件,すなわち
\begin{equation}
(\sqrt{2}-1)p\le q\le (\sqrt{2}+1)p
\end{equation}
p,qに課されている.例えばこの条件下にあるq=p+1ならば,
\begin{equation}
A=2p^2-1,B=2(p+1)^2-1,X=2p^2+2p+1,
\end{equation}
すなわち
\begin{equation}
a=p^2,b=(p+1)^2-1,x=p^2+p
\end{equation}
となって,冒頭の学生が発見した等式に戻る.

また(p,q)=(3,5)とすると(A,B,X)=(7,23,17)すなわち(a,b,x)=(4,11,8)となり,新たな等式
\begin{equation}
4+5+6+7+8=9+10+11
\end{equation}
が見つかる.あるいは(p,q)=(4,7)とすると(A,B,X)=(23,89,65),すなわち(a,b,x)=(12,44,32)となって,別の新たな等式
\begin{equation}
12+13+\cdots+32=33+34+\cdots+44
\end{equation}
が得られる.q=2pも条件下にあり,このときは
\begin{equation}
A=p^2,B=7p^2,X=5p^2
\end{equation}
と綺麗な形になり,奇数pに対して新たな系列
\begin{equation}
a=\frac{p^2+1}{2},b=\frac{7p^2-1}{2},x=\frac{5p^2-1}{2}
\end{equation}
が得られる.



使っているのは高校数学程度なんだが,結構面白い.
おやおや,なんだかミイラ取りがミイラになりかかっているぞ...