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残念な国(5)―国は人を以て盛なり

OECDの国際教員指導環境調査結果についての記事がちらほら見られたので,
国立政策研究所へ見に行ってみた.www.nier.go.jp
そこにTALIS日本版報告書「2013年調査結果の要約」が置いてある.
あるいはグラフなどで見やすくまとめたOECD国際教員指導環境調査(TALIS)のポイント
のほうが良いかもしれない.
特に最終ページにデータを上げてこの国の現況に対する主張がされていた.

とくにあちこちの記事で取りざたされているのがOECD平均38.3時間/週にたいして,
この国では飛びぬけて53.9時間/週という点だ.
その業務配分,事務業務が重荷なんだろう,と思ってたら,
それよりも課外活動(部活)に時間を吸われている.
調査6項目中5項目がOECD平均を上回り相変わらずな勤勉さがうかがえる.
そして皮肉にも唯一時間の短かった項目が教員の本分たる「授業時間」だった.
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OECD国際教員指導環境調査(TALIS)のポイントから.
こうなってくると,教科教育と課外活動を同一の教員が行うのは
そろそろ諦めたほうが良いのではなかろうか.
課外活動専門の職や何らかの受け皿が本当は必要なんだろうと,
口には出さねど皆思っているのでは?

ま,だけど夢物語なんだろうね,お財布省がこれなんだから.news.tbs.co.jp
3.7万人削減で0.2兆円ほどの「節約」なのかな.
それだったら,シロウト目に「特別会計」どっか削ったらええやん,
とか思って現況を覗いてみた.www.mof.go.jp
およそ200兆円の3/4が社会保障と国債の償還と利子なんだね.
そしてよく見るとここには文科省固有の部分がない.
(法人化前の国立大学だったときはここに特別会計枠があったらしいが.)
でもなぁ,人を育てるほか生き延びる術のない国のはずなのに,
短期的な教育予算の付け方では育たないよね.
大学への予算どうのこうののことを言ってるんじゃないんだ.
教育全体への予算の付け方,これは国家100年の計として
外的状況がどう変わっても頑として子どもたちを育てる予算だけは
安定して確保できる仕組みにしておけなかったものだろうか.
賢い家庭だって未来を見越して教育費の積み立てをどうにかしてするものだろうに.

さて先程の調査の続き.一方でまた,そりゃそうだろうな,という結果も.
なぜならこれまで多くの教員自身が「主体的学び」を経験してこなかったのだから.
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OECD国際教員指導環境調査(TALIS)のポイントから.
となると今すぐできることは,目の前の学生たち,やがて現場に出る学生たちに,
たとえ疑似的・錯覚であったとしても主体的に学んだという経験ができるよう
ささやかでも仕掛けを作ることだ,といつもの主張に戻るわけだ.

某国はその創設時より虎視眈々と覇権を目指して今日に至る.
数年ごとに顔を変えてきた,他国を出し抜くなんてことのできないこの国では,
権謀術数を張り巡らす国にとても対抗できる気がしない.
チェックメイトされる前に人を育てておかなくては.

山は樹を以て茂り,国は人を以て盛なり.
                吉田松陰

教員環境の国際比較 (OECD国際教員指導環境調査(TALIS) 2013年調査結果報告書)

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人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

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残念な国(4)―つまり様式美ということですか?

いやぁ,傾(カブ)いてたね,国会.
結局,幼稚園のお遊戯会で幕を閉じたんだね.

だけどね,振り返ってみて色々考えさせられたよ.
何より,憲法というものを恥ずかしながら生まれて初めて真剣に考えてみたよ.
そしてきっと,自分と同年代の多くの皆さんもそうだったのではないかと勝手に想像している.
自分にとって何よりショックだったのは,
憲法審査会での与党推薦を含めた学識者三人すべてが
「集団的自衛権」を行使する今回の法案を「違憲」と判断しているにも拘らず,
その後は当審査会を開催せず一切封印してしまったことだった.
何だろうな,ふと焚書坑儒を思い浮かべてしまったよ.全くもって見事な反知性主義だね.
web-saiyuki.net

実際のところ,安保法案の中身そのものについて自分は賛成も反対もしてるわけじゃないんだ.
というのも実際のところ,何が本当に変わるのか起こってみないと分からないからだ.
ただ,あいかわらず「なんちゃって民主主義」で終わってしまう,
この国の空気が残念で仕方ないんだ.
そして与党内野党,つまり実質的に野党の役割をしていた
自民党内の「モノ申す」派閥が無くなってしまったこと,
自民党の大政翼賛会のような空気が気味悪くて仕方ないんだ.
それは特定秘密保護法案が通ったときにも感じたことなんだけどね.

国際情勢の急激な変化の中,一市民の自分の想像をはるかに超えて
実際,事を急がねばならない事情がきっとあるのでしょうね.
それでも,かの大戦の記憶の残っている人たちが物申せた時代なら,
少なくとも今回の法案を時限立法にしたんじゃないだろうか.
例えば3年あるいは5年に限った法案として,その間に国民の間で十分な議論を行う.
憲法改正からやっていたのでは間に合わないのだとしても,
とりあえず期限付きで運用して,その間に国民のコンセンサスを形成するやりかたは
ありえなかったのだろうか?

どちらにしても,憲法学者93%以上(報道ステーションアンケートに基づく推定値)
が「違憲」と判断している中で,対話ではなく終始「説明」だけに留まった政府のやり方,
これほどあからさまな子供じみたやり方は多分過去に例がないんじゃないだろうか.
(つまりかつての「大人」が居た自民党だったらもっと上手くやってただろう.)
大体,採決直前の公聴会って何のためにやるのさ.先の憲法審査会と同じノリだよね,それ.
あ,因みにその推定問題は今年の確率統計に出したんだよ.

さて,でも憲法学者はどのように「違憲」と判断しているのか,
「偉い人が言ってるから」で終わらせてちゃ「なんちゃって」だね.
で,一つリンクを.

こんな風に憲法学的に通常の読み方をすると「違憲」になってしまう.

でも,更にそれに対し異論を唱え,憲法を未来に開かれた道具として捉える,
もう一つ上の次元の議論をする人もいた.
必要に応じ,時代の状況に応じ,憲法を柔軟に改憲する文化のある国に対し,
「解釈改憲」という文化もあっても良いんじゃないか,という提案.

そうなると良いなとは思う.
でもねこれ,改憲する文化より遥かに高度な民主的な市民でないと難しいだろうな.
少なくともまずい発言が出たら真正面から議論することなく蓋をしてしまう政府や,
「戦争法案」と一般市民の不安に訴え掛けやすい文言で議論をすり替えてしまう野党とでは
解釈改憲の文化なんて夢のまた夢のように思えてしまう.

主権者の国民が選挙で選んだ代表者らに権力を付託したとき,
その権力が暴走せぬよう制限し主権者たる国民の人権を保障するってのが憲法なんだね.
随分長い間,人類はわずかな独裁者の下でまとまって社会を成してきたのだけど,
ようやく近代になって個人からなる社会を作るところまできた.
その文脈の中で憲法を端的に表した言葉があるそうだけど,
誰が言った言葉なのか結局辿れなかった.

人類の進化の歴史がDNAに刻まれているとすれば,
人類の英知の歴史は憲法にこそ刻まれていると言うべきでしょう.
平和憲法のメッセージ

www.iacl-aidc.org

何にしても政府が国民に「腹を割って」正直に語りかけてくる時代って,
この「様式美」(要するにお約束)の国に訪れるのかなぁ.
あるいは「しょうがないじゃん」と諦めて,長いものに巻かれやすい国民性からして
一億人レベルでの民主主義はムリなのかなぁ...

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残念な国(3)―「丁寧な説明」

【問1】報道ステーションが去る6月に憲法学者ら198人にアンケートをとり,151人から回答を得た.その第1問,「一般に集団的自衛権の行使は日本国憲法に違反すると考えますか?」について,151人中4人が「憲法違反の疑いはない」と答えた.
この結果から日本全体の憲法学者のうち何%が合憲と判断するか信頼度99%で区間推定して下さい.

これは今年度の「統計とコンピュータ」にて出題した最終チェック問題の一つだ.
母比率の推定を行え,という問題なわけだが,まぁその答えは
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となる.実際は数学的な前提,「確率変数」(この場合は憲法学者一人一人の回答)
が互いに独立である,つまり
「憲法学者たちが互いの意見に影響されず独立に判断していること」が必要だ.*1
その前提が満たされているとするなら,この国の憲法学者ら全員に尋ねても99%の確率で
高々6%が「合憲」と判断するという意味になる.
もちろん,いま目の前で異常なことが起こっているんじゃないかぃ,
と学生らに気付いて欲しいという意図アリアリで出題したのだけど,
そもそも肝心の問題に手を付けてもらえていなかった,それこそ高々6%も無いくらいに.
合掌.


しばしば有識者と呼ばれる人たちが政府に招かれ,述べた見解を「参考」にし,
ときには政府方針補強に利用されるわけだけど,
自民推薦の有識者含めた3者全員から「違憲」と批判されて以来,
憲法審査会は結局開かれなかったのだよね.こうして臭いものには蓋をしちゃうんだね.
web-saiyuki.net

PKO法案ですら数回の国会をまたいで議論され,
そうして「まがりなりにも」時間を掛けたことで,
ある意味その歴史的転換に国民も参加できていたのだが,
閣議決定されてからわずかひと月余りのうちに成立した「特定秘密保護法案」にはじまり,
いよいよこの9月中旬に参議院可決されてしまうであろう話題の安保法案という具合に,
「丁寧な説明」を行い,「粛々と」ことを進めていくわけだ.
そして「説明」という時点で「国民とは対話はしないよ」とも言っているだよね.
まぁしかし,これほどまでに大事な転換点に主権者たる国民を正面から参加させないやり口に,
息の軽い,哲学の無い,筋を通さない政治に,多くの人が憤っているのは確かだ.

生きる場所と考える自由を守り,創るために,
私たちはまず,思い上がった権力にくさびを打ちこまなくてはならない.

  自由と平和のための京大有志の会「声明書」より

www.kyotounivfreedom.com

先の大戦前夜,世界恐慌によって国は困窮し人々は不景気に喘いだ.
活路を見出すべく,国粋主義,全体主義がこの国を覆った.
「ネトウヨ」と呼ばれる人たちの書き込みを見る度,
あの大戦前夜もこんなふうに閉塞し鬱屈した空気だったのかもしれない,と
とても嫌な暗い気持ちになる.

反知性主義が蔓延って久しいこの国で,
憲法学者らによる政治イデオロギーから独立した
純粋に学問的観点からの指摘が最後の灯だった,
となってしまいませんように.
合掌.

そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,
その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,
その福利は国民がこれを享受する.
これは人類普遍の原理であり,この憲法は,かかる原理に基くものである.
われらは,これに反する一切の憲法,法令及び詔勅を排除する.

 日本国憲法 序文より

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*1:テクニカルな要請として「サンプル数×標本割合≧5」が必要だけど,いまの場合4なのでちょっと足りなかった.

立秋過ぎてなおお仕事

学生はすっかり夏休み気分なわけだが,我々はこれからがひと仕事.
高大連携スクールと教員免許更新講習.
今年も恒例のネタ,といくつもりだったが,
れいの「教科学」で発掘したいくつかのネタを盛り込みたくなった.

↓Genaille-Lucasの計算棒.わざわざミシン目も入れてその場で遊べるようにした.
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このおもちゃの詳細は↓tokidoki.hatenablog.jp

またネイピアの計算盤もやるつもりなのでおはじきを確保.
高校教員らが算数セットのおはじきで遊ぶんだよ.
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で,話の入りはオープンキャンパスで「つかみはOK」的な反応のあった話から.
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そしてもちろん,もう10年以上つかっている「なんちゃって計算機」も投入.
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ま,反応はそこそこだったかな.
そうそうそれと何か見たことある顔だな~っとおもっていたら,
かつて講義をした学生らが10年研修で今回講義を取っていた.赴任して12年だからね.

いずれにしても,教員も生徒も学生も,
リアルに手足を動かしての数学を体験する機会が少な過ぎる.
そんな思いもあっての今回のプログラム.何か残せたかな.

ってわけで,二日連チャンのお仕事終了,今日から休み!
気になっている研究ネタがあるので,お盆はそれに集中.

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おっと,気付けばこんな書き込みが→
今度は冬呑みっすね,五代目の諸君.

Open Campus 2015

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はい,今年もやりましたよ,オープンキャンパス.
今年は試みで,学生による模擬授業を一部屋独立で行うことに.
昨日,今日二日で数学からは2グループが行った.

1日目,中等数学の学生で.
まずモンティ・ホール問題で遊ぶ.当たったら「じゃがりこ」がもらえるという
インセンティブつきのゲームとその解説.
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次にメインの「3色カード」の手品.
これは某4年Sigmaの学生の発案が元になっている.
実際に少し手を動かして考えた者にとっては直感的によく分かるのだが,
これを初めて聞く人たちに短時間で表現するのはなかなか難しかったようだ.
ついでにパスカルの三角形をmod3でみると
シェルピンスキーガスケットが現れることをEXCELで実演した.
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最後は同じ部屋に誕生日が同じ人がいる確率について.
「自分と同じ誕生日」だと確率は低いが,
「同じ誕生日のペアがいる」だと人数とともに急激に確率が上がるという話.
この日も60名ほどで調査したらいくつも誕生日ペアがあることが分かった.
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二日目,今度は初等算数のグループで.
初等らしい,算数・数学を使ったちょっとした遊びをネタに.

初めに分数の割り算.
何故分数の割り算ではひっくり返して掛けるのか,という典型的な話.
さてさて,改めて解説を聞いて納得できたかな.
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次はその筋の人たちには有名な「1089」.
「私,超能力を身につけました!」から始まる,記数法からくるちょっとしたマジック.
こういったものは文字で表せばその構造がよく分かるよね,という話.
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最後は,mod10でおこる一見不思議な現象.
加算の過程でフィボナッチ数列が係数に出てきて,
15項目に610≡0 (mod10)が現れて影響がキャンセルされるという話.
振り返ると初めを5555で試したのはそういう意味だったか,と今書きながら思った.
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いずれも,短時間で不思議さと納得が得られて丁度良いネタだったと思う.

何れの日も,上手くいったり悔しかったり,
学生らも色々思うところが有っただろうな.
それにしてもどういったことを面白いと教授者本人が思っているか,で
授業というものは様々に変わるのもなんだと改めて感じた.
何はともあれ,お疲れ様っす!
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