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数学と音楽と教育と遊び

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数理音楽の風景(1)-不協和度曲線

ゼミ すうがく おんがく

2012年度卒業生から始めた当ゼミでの数理音楽なる分野,
その風景を数回シリーズでまとめてみよう.

準周期系の研究において連分数にまつわる力学系を扱うことが多かったことと,
はるか以前から音楽の仕組みに数理的仕組みが見え隠れしていると感じていたので,
ずっと取り扱いたいとは思っていたことだった.
そもそも音階の作り自体,繰り込み的な要素が多分にあるし,
その辺の感覚は連分数力学系そのものに由来する.
DSpace at 愛知教育大学: A Renormalization Approach to Level Statistics on 1-dimensional Rotations

さて,その数理音楽のゼミでの取り扱い開始は2012年度7代目の卒業研究から.
ドレミファそーする?―音律の数理と音階の構成―
不協和度曲線から始まって,連分数展開による音階構成の仕組みまで触れた卒論.
とあるページでもこの卒論が紹介されているのをしばらく前に発見した.
sites.google.com
この卒論,元になった藤沢+クックの論文*1
和音性の計算法と曲線の絵描き方 ―不協和度・緊張度・モダリティ―
の真似事から始まって,
不飽和度曲線で起こっている解析的な現象をちょっと数学的にきちんと書いてみた,
というものだった.
ただ,不協和度曲線の協和点でグラフが尖ってるといった特長があればいいものを,
そうもなっていなかったために,何らかの方法で協和点を解析的に特徴付けねば,
とでっち上げたのが第二種不協和度曲線だった.
tokidoki.hatenablog.jp

不協和度曲線の数理モデルのアイディアはこうだ.
まず,周波数の異なるsin波を同時に2つ鳴らし,
心理的な快不快の度合いを複数の被験者に採点してもらう.
その結果丁度半音階程度ずれたときが最も不快で,
そこを離れるに従い不快感は減っていったので,
この採点結果を適当な関数でモデル化する.それは例えば
f:id:okiraku894:20170129104409p:plain
であり,純音のドに対する別の純音の不協和度が以下.
f:id:okiraku894:20170128144954p:plain

しかし実際の楽器による楽音は複数の倍音が鳴っているため,
複合音の不協和度は純音の不協和度曲線をシフトして重ね合わせたものになるだろう,
つまり協和・不協和感覚に線形性が成り立っているだろう,という仮定を課すのである.
f:id:okiraku894:20170129105131p:plain

その結果,以下のような複合音に対する不協和度曲線が得られる.
例えば楽音のドに対する別の楽音の不協和度は↓
f:id:okiraku894:20170128144955p:plain
そして経験的に人々(正確には西洋音楽圏の人々*2)が協和すると感じる場所で
不協和度が下がっている,という尤もらしい説明ができる,というわけだ.
なお当たり前のことなのだが,この協和点の集合はFarey列にlog2したものに他ならない.

特に完全五度である3/2倍音は常にオクターブに次いで最も協和度が高い.
そのことによってピタゴラスは現在ピタゴラス音律と呼ばれる,
音階づくりのルールを定めたのだった.
そしてそこから連分数力学系が絡む素敵な世界が広がるのだが,その話は次回以降へ.

音律と音階の科学―ドレミ…はどのようにして生まれたか (ブルーバックス)

音律と音階の科学―ドレミ…はどのようにして生まれたか (ブルーバックス)

*1:更にその大元にはPlomp と Leveltによる音楽心理実験があるのだ. R. Plomp and J. M. Levelt "Tonal Consonance and Critical Bandwidth" Journal of the Acoustical Society of America, 1965.

*2:実際,ハーモニーという概念を持たない民族圏の人々は例えば半音差で二音鳴らした場合と完全五度で鳴らした場合とで快不快感に特段の違いは起こらなかった,という実験結果がある.単旋律文化圏であった他ならぬ明治以前の日本人もそうだったのではなかろうか.

四度堆積からの誘い(2)

すうがく おんがく ゼミ

4月にこのネタで書いてから随分経ってしまった.
tokidoki.hatenablog.jp
このときはTymoczkoの論文を読んだゼミ生の卒論が元となって書いたものだったが,
それ以後も折に触れ(特に毎朝のピアノにて)四度堆積は色々と観察してきた.
四度堆積というのは五度圏を逆に回ることでもある.
そしてそれは数理音楽的にみると極々自然に下方倍音という発想に至るものでもある.
ongakuriron.rulez.jp

四度堆積を4つ重ねた和音,第二音を上げ下げするだけで面白いことになる,
ってのは世間的に色々知られてるのだろうか.
まず第二音を半音上げるとこれがずっと気になっているトリスタン和音.
これはclosed voicingにすればいわゆるhalf diminished m7♭5というやつ.
そしてそれはまたルートから見た下方倍音列の最初の4つでもある.
でも今回書きたいのはこのことではないので,これは次の機会にでも.
f:id:okiraku894:20151231211047p:plain:w300

もう一方の面白いこと.それは第二音を半音下げることだ.
実は四度堆積で遊んでいて,ふとトリスタンと反対に半音下げて弾いたところ,
それがとてもJazzyな響きになって,「おやっ!」となったことに始まる.
これをコードでどう書くのかわからないけど.
f:id:okiraku894:20151231213829p:plain:w300
これ,EとB♭でtritoneになっている.クロマティック12音音階を丁度半分にする,
緊張度の高い音程で,西洋古典音楽では扱い注意の響きだ.
diminishedやAugmentationなど,等間隔に音が並んだ和音は緊張度が高く感じられる,
というのはCook氏らの研究にも述べられている.
(しかしそういえばトリスタンもtritoneを含んでいるね.)
The Psychophysics of Harmony Perception:Harmony is a Three-Tone Phenomenon

で,これどこかに使われてるかな,って探してみると,
例えばBill EvansのWaltz for Debby.
一番最後のオシャレなopen voiceのmaj7thが3つ続いた後の不思議な和音.
その辺にある譜面を見るとこれはC7 altと書かれているわけだけど,
altered scaleからtension一つとってきて載っけた和音と言われても,何だか.
音楽文脈的には四度堆積の変形と見るのは間違いかもしれないが,
もはや三度堆積和音からの解釈は意味を成さないと高らかに謳っているようだ.
そしてついでに最後の和音は完全に四度堆積.
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そもそも四度堆積そのままでの名曲,Miles DavisのSo whatで
それは宣言されたのだろうけど.

So What by.Miles Davis

でも,この四度堆積の第二音を半音下げる,何かで聴いたよなぁ~
って弾いてたら,緊急地震速報がこれなんだね.
これは四度堆積5つの第三音を半音下げて出来ている.
たったこれだけなんだけど,この危機感はなに?

Beethoven on Doodle!

あれこれ おきにー Art おんがく

何でも生誕245年だそうで,L.v.Beethoven.
年末も近づいてきたことだし,日本人特有の現象だけど
第九聴きたくなってきた.
ピアノ・ソナタ悲愴,第一楽章のテーマって不思議なんだよな.
悲愴と言いながらメジャーで攻めるんだよ.
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そういう話ではなくて,本日のGoogleロゴ,面白かったのでリンクを.
記念日にロゴで遊べるようになってるのだけど,
踏んだり蹴ったりのBeethovenがカワイイ.是非,トライしてみて.
(あ,但しChromeでないと動かないみたいだ.因みに↓は,ただの画像.)
f:id:okiraku894:20151217194128p:plain
アクセスはコチラ↓
www.google.com

あと,こういうロゴはDoodleと言うらしく,
過去の全ての動くロゴがアーカイブされていることを今知った.
www.google.com

四度堆積からの誘い(1)

おんがく すうがく ゼミ

その昔,Debussyが音楽院の学生だった頃,
完全四度を積み重ねた和声による音楽をまだ誰も作っていないことにあるとき気付き,
とても喜んだ,という逸話を何かで読んだ気がする.
この四度堆積和音という視点はそれ以後,
たくさんの音楽家たちによって試みられ,様々に発展してきた.

私自身ここにきて改めて,四度堆積という見方が気になり始めた.
というのも,それ以上音を付け加えると壊れてしまう気がするという意味で完全な和音,
トリスタン和音が四度堆積和音の派生物とも捉えられることに気付いたからだった.
トリスタン和音 - Wikipedia
ついでにこの四度堆積和音の他の派生物も色々弾き試してみると,
Jazzyな和音が次々に現れてくる.おやおや.

そんなことを大学に通勤する前の毎朝数十分,ピアノ練習の中であれこれやっているうちに,
この四度堆積,あるいは一般にn-semitone堆積という視点で
数理音楽を展開するのはどうだろう,と安直に思ったわけだ.
(そんなことは既に大勢の人がやってきたことだけど.)
一度古典的な三度堆積の音楽世界から離れたら,
無理に分数コードなんてこと考えなくても済むんじゃないか,なんてね.

この3月で卒業するゼミ生の卒論の一つTymoczkoによる「和音の幾何学」だった.
多声部の教会音楽が作られるようになって以来,
いかにして心地良く和声をつなげるか,つまりスムーズなvoice leadingをどう見つけるか,
といったことは現実的な問題として必要だった.
Tymoczkoが試みていることは和音を「上手く」空間配置し,
和音間の距離,あるいは位相を考えることで
効率良くスムーズなvoice leadingを探す,という提案だった.
もっともこの和音の幾何学化,古くはオイラーにまで遡るのだけど.
(そしてそこで提案されたTonnetzというアイディアは,
何と高校「数学活用」の教科書にも載っているんだ!)

A Geometry of Music: Harmony and Counterpoint in the Extended Common Practice (Oxford Studies in Music Theory)

A Geometry of Music: Harmony and Counterpoint in the Extended Common Practice (Oxford Studies in Music Theory)

例えば3つの音からなるあらゆる和音(非和声和音も)全てを空間に配置しよう.
1オクターブは12半音あって,オクターブ違いの音は同一とみなすなら,
Z/12Z で音たちを捉えることになる.
したがって3音和音(triad)はこの3組(Z/12Z)3,あるいは(R/12Z)3の点として表される.
するとまたtriadの転回形も全て同一と見做すから,この3組は順に依らない,
つまり (R/12Z)3/S3 の点として捉えられる.

ここでTymoczkoは12半音を3等分するC,E,G#を断面とする座標系をとってtriadを配置した.
例えばtriad CEG#は△CEG#の重心に取る.
triadを構成する3音の第1,2,3音を半音上げるベクトルをa1,a2,a3とする.
例えばCEG#+a1=C#EG#,CEG#+a2=CFG#,CEG#+a3=CEAといった具合だ.
ところがこのベクトルたちを注意深くとっておくと
triadを構成する3音が張る平面上にそのtriadがあるようにできる.
例えばtriad CEAは平面CEA上にある,といった具合に.
f:id:okiraku894:20150320122055p:plain

これがたまたま3音だからというわけではなく,一般にn音和音でも(R/12Z)n/Snの上で可能だ,
ということが上記の卒論で示されている.卒論はしかし配置までで実質終わっているが,
この図を見ていると色々と音楽的現象が説明されるようで面白い.

ところで四度堆積はどこいった,ということなんだが,
Tymoczkoは(おそらく)12半音を等分するという意味でCEG#-断面で座標系をとった.
しかしJazzyな響きなどはオクターブに収めて説明できるようなものじゃない.
だからZ/12Zより拡げよう,そうすると断面はもっと自由になる.
トリスタン和音を捉えたい,ならば4音和音を考えよう.
そしてトリスタンは四度堆積からの派生だ,ならば断面を四度4つで始めよう.
つまり,CFB♭E♭-断面からだ.因みにトリスタンはこの第2音を半音上げたものだ.
そしてあらゆる4音和音はそれを構成する4音が張る超平面上にあるように
生成ベクトルを調節できる.

ところで自分が本当に捉えたいのは和音の色彩感.
その入り口となる研究が音楽心理学の観点からCook氏らによって行われている.
例えば和音の緊張度といった概念が挙げられている.
和音を構成する音の隣接間隔が同じであるほど人は緊張感を感じる,
という心理実験に基づいて倍音まで考慮して和音の緊張度計算モデルを提示している.
f:id:okiraku894:20150320122054p:plain
↑卒論から.
因みにTymoczkoの断面CEG#は三度堆積和音だから緊張度が高い.
(しかも3度=4半音なので12の約数だから倍音を考慮しても緊張度が下がらない.)
四度堆積CFB♭E♭-断面も同様に緊張度が高い.
そして空間配置はこの高緊張度和音を中心軸にして配置されることになる.
これは何を意味するのだろうか?

あるいはモダリティー.いわゆる和音の明暗のモデルも提案されている.
f:id:okiraku894:20150320122056p:plain
↑卒論から.
このモデルに従えば,等間隔和音は中性的ということになる.
(完全四度=5半音は12と互いに素だから,倍音まで考慮すると
四度堆積CFB♭E♭-断面はどっちかに傾いてるかもしれないが.)

そんなこんなで四度堆積,一般にn度堆積和音からの音楽解釈は
数理音楽的に面白いんじゃないかと思い始めた次第.

因みに卒論で使った図はBASICで.ついでに倍音の影響がどのように反映するか
その様子を例えば緊張度についてこんな感じ,と以下に貼っておく.

↓純音のみ
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↓2倍音まで考慮
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↓3倍音まで考慮
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↓5倍音まで考慮
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「ン」ジャジャジャ ジャーン なのだ

がくせい おんがく

ジャジャジャ ジャーン じゃない,1拍目,休符から入るんだ!
だから緊張感が出るんだ!

っていう話を中学生ぐらいに聞いて,浜松駅近くのYAMAHAで
Beethoven Symphony No.5 の楽譜を探したのを思い出しながら,
今年も夏の当大学オケ公演を台風一過ギリギリで聴きに行った.

人々がある意味,無邪気に高らかに人生を謳いあげることのできた古典派の音楽.
あれから我々人類,ちょっとは幸せになったのだろうか?


美術館屋上の吹きさらしのオブジェを眺めながら,
絶対を失った現代の彷徨いをふと憂う.

そういえば横浜トリエンナーレ,始まったそうだ.
行こうかなぁ...