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免許更新講習と高大連携2016

この時期,毎年まとめてのお仕事,本日は免許更新,明日は高大連携.

で,いずれも「位取り記数法」から出発する数々の話題.
素朴な数の四則演算の世界は一般の人だって参加しやすいので,
この10年お気に入りでずっと活用している.

で,それに利用するグッズ↓今年もなんちゃって計算機は健在.
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黒三角の模様のシートはGenaille–Lucas rulersという計算棒.
「ネイピアの骨」における繰り上がりの部分を工夫したシロモノ.
そういえば,これ1年前に紹介していた.
tokidoki.hatenablog.jp

さてこれが終わると,3年ぶり,あいちトリエンナーレ!
現代アートに包まれる2ヶ月.
発売と同時に取得したフリーパスで県内の会場を散策の日々,の予定.
あいちトリエンナーレ2016

あいちトリエンナーレ2016オフィシャルガイドブック (ぴあMOOK)

あいちトリエンナーレ2016オフィシャルガイドブック (ぴあMOOK)

オープンキャンパス2016-本番!

連日報告している,オープンキャンパス,その当日.
tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp

数学の学生がやるのは初日の一番最初の時間.
開始15分前はまだ誰も来ず.果たしてお客さんは来るのだろうか?

という心配を他所に,10分前に突然人があふれ出す.廊下に立ち見が出るほど.
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って状態で,いざ開始.あれ,緊張してる?
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今年はネタが二つ.一つ目は平面図形の重心のちょっとした求め方.
点対称な図形なら分かりやすいのだけどね.
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さて,ハートはどう求めますか,ってなると,みな混乱.
紙とはさみを渡して生徒らに試行錯誤してもらう.
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ところがある方法を使えば簡単に重心が求められる.
愛知県の重心だって求められるよ,さて,どうやるのかな?
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ってことで,画鋲と錘付きの紐を配って再びディスカッション.
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さて,種明かし.愛知県に画鋲をぶっ刺して,ぶら~んとさせます.
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で,錘を使ってゴニョゴニョっとを2回やると,じゃ~ん,重心が求まります.
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こうして一つ目の話題おしまい.
次は簡単な代数を利用した「生き残りゲーム」
はい,参加してくれる人!
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って募ったらすぐに手が挙がって,お陰様でスムーズに進む.
皆さん前に集まって,何やら作戦会議.
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そして完成したのがこのシュールな画.
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後ろから順に自分の帽子の色を当ててもらうのだが,
当然ヤマ勘だから外れる人も出る.そして高校生,ナイス表情.
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と,突然始まる,予想外の二人芝居.
右の少年の無茶ぶりにも(き,聞いてないよ)とはならず,咄嗟に対応する左の少年.
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このゲーム,一番後ろ以外は確実に色を当てられる方法がある.
その様子をまずは種明かしせずスタッフが実演してみせる.
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種明かし後,再び高校生にやってもらったところ,見事成功.
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「みんな,分かってくれたかな?分かってくれた人!」「ハイ!」
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ってかんじで,模擬授業を終わります.パチパチパチ!
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笑いあり,考える時間あり,ディスカッションもあり,で高校生らも楽しんでくれた模様.


さて,ひと仕事終えたら,やっぱピザパだね!
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準備ができたので,かんぱ~い,お疲れ!
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いただきますっ,から~の,
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かかれっ!
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パクッ,そしてウマし.
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今回初めて二年生中心で短期間に準備したのだけど,
久しぶりに教育大学の学生らしく快活で,またよく教育に配慮した模擬授業になったと思う.
テスト期間中,忙しいにもかかわらず,あらためてご協力に感謝!

残念な国(9-b)―あたらしい憲法草案のはなし

お,やるじゃないか.
www.asahi.com
争点化を避けている政府与党に対し,マンガ雑誌らしい提起の方法だ.
ちなみにこれはかつての文部省(文科省ではない)が
戦後の新しい国の形を子供向けにやさしく説明したもので,
現在では青空文庫としてweb上で読めるようにもなっている.
文部省 あたらしい憲法のはなし
その中にある↓の画は教科書で皆見たことがあるんじゃないだろうか.
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戦争に使われていたものを平和なものに作り変えていこうという国家の意気込みを表す,象徴的な画だった.
人々がこんなふうに心底平和な世界を願っていた時代だった.

さて,この「あたらしい憲法のはなし」を読んだついでに,
次の「あたらしい憲法草案のはなし」を是非読んでみて欲しい.

あたらしい憲法草案のはなし

あたらしい憲法草案のはなし

  • 作者: 自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合
  • 出版社/メーカー: 太郎次郎社エディタス
  • 発売日: 2016/07/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログ (5件) を見る
うんうん,なにしろ自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合が作っているんだ,
きっと素晴らしいこれからの新しい国の形を示してくれているに違いない.
出版社のHPにある内容紹介を見てみよう.

「国民が国家をしばる約束」から「国家と国民が協力してつくる『公の秩序』」へ.
草案の提案する憲法観の大転換を,起草者たちの論理と願望にぴったりとよりそって語る.

そうそう,もう本当にぴったりと寄り添い,ありったけの想像力を駆使して
どんな思いでこの草案が作られたのかを考えないと分からない内容だものね.
はじめに,を読んでみよう.

....
 憲法はいま,大きな分かれ道にたっています.政府と与党である自民党のあいだで,いままでの憲法をあたらしい憲法に変えようという気運が高まっているのです.
 憲法を変えるためには,衆議院と参議院のそれぞれで,3分の2以上の議員の賛成を得ることが必要です.両院で3分の2以上の賛成を得られたら,つぎには国民投票がおこなわれ,投票者の2分の1以上の賛成が得られれば,あたらしい憲法に変わります.
 このように,憲法を変えるためには,とても高い壁がたちはだかっています.それだからこそ,憲法は70年も変えられずにきたのです.
 ですが,この高い壁がこえられる日は,近いかもしれません.憲法を変えたいと思っている両院の国会議員の数が,3分の2を超えようとしているからです. 
 いいかえれば,いままさに,わたしたち国民ひとりひとりが,現在の憲法のままがよいか,あたらしい憲法に変えるべきかを問われているのだといえましょう.

おやおや,それは大きな変化だね.

 あたらしい憲法のもとになる案は,平成24年(2012年)4月27日に自民党が発表した「日本国憲法改正草案」(以下,憲法草案と略します)です.
 みなさんは,この憲法草案がどんなものかごぞんじでしょうか.よく知らないという人が多いのではないでしょうか.そんなことでは,いまのままの憲法がよいか,あたらしい憲法がよいのか,判断することができません.

うん,全くその通りだ.ちゃんと読み比べなくてはね.

 そこで、わたしたちも,70年近くまえの『あたらしい憲法のはなし』をみならって,『あたらしい憲法草案のはなし』をつくることにしたのです.
 わたしたちはこの草案をつくった人(起草者)ではありません。ですが、できるだけ草案をつくった人びとの気持ちによりそい、そこにこめられた理念や内容 をつたえたいと考えました。改正の意図がわからない点は自民党が出している資料などを参考にし、それでもわからないときは、起草者の身になって考え、ことばをおぎないました。

いやぁ,そうなんだ,どうしてそう変えようと思ったのか,さっぱりわからないところが沢山あるからね,
ありったけの想像力を駆使してもちょっと分かりかねることばかりだからね.

 憲法改正に賛成する人も,反対する人も,どうぞこの本をお読みください.この草案を考えた人びとが,どれほど強い,熱い思いをもって,あたらしい憲法をつくろうとしているかが,きっとおわかりになるでしょう.そのうえで,憲法を変えたほうがよいのかどうかを,しっかり考えてもらいたいと思います.

では目次を見てみよう.

  はじめに
1 憲法を変える理由
2 国民主権の縮小
3 戦争放棄の放棄
4 基本的人権の制限
5 強く美しい国へ
資料1 「あたらしい憲法のはなし」(抄録)
資料2 自民党憲法改正草案(現行憲法条文対照)

いやぁ,素晴らしい.
戦後70年,あの戦前の息苦しさを十分に取り戻しているこの国の
最後の総仕上げがこの草案というわけだ.

そして空気を読むことに長けた若者たちはより空気を読んで生きねばならない世界を望むんだね.
18~19歳「自民に投票」44% 本社調査 経済政策「評価」48% :日本経済新聞
www.nikkei.com

まぁ,真剣に考えて行動する同世代を「意識高い系」などと揶揄し,あるいは自虐する彼らだ.
人と違ったことを堂々と言う者達を鬱陶しく感じるのも想像に難くない.
ネット上いたる所で見られる若者によるSEALDS叩きはそんな空気の象徴だろう.
「列を乱すな!大人しくしていろ!」―これが日本の空気だ.
「ぜいたくは敵だ!」「一億総火の玉だ!」―あの時代から何も進歩していない.
国民精神総動員 - Wikipedia

そう.もう一度言うが,この国には結局,市民は育たなかった.
個人というものをその土台に据え,自分の頭で考え自分の言葉で話す市民は育たなかった.
戦後の学校教育は市民を育てられなかったのだ.
育ったのはひたすら空気読みに長けた大衆だけだった.
たとえ市民が育ちかけても,悉く「日本の空気」に呑みこまれていく国なのだ.
tokidoki.hatenablog.jp

戦後70年,リベラルな空気に抑圧されてきた日本会議のみなさん,おめでとう.
ようやく皆さんの目指す「良い子の国」新・大日本帝国の建国が間近となったのです.

tokidoki.hatenablog.jp

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議 戦前回帰への情念 (集英社新書)

日本会議 戦前回帰への情念 (集英社新書)

残念な国(9-a)―二度の世界大戦を忘れた人類,再びナショナリズムの嵐へ

タイトルは「残念な国」ではなく,「残念な人類」とすべきかもしれない.

本日,イギリス国民はEU離脱を選択した.
"Britain first!"と叫ぶ男に残留派のジョー・コックス議員が殺害されるという,
自分がイギリスに対して抱いているイメージからは違和感を感じる事件があった.
日本で言えば差し詰め「天皇陛下万歳!」だろうか.

残留派と離脱派についての面白いデータが有った.
"Education and EU referendum"というものだ.
つまりその人が受けた教育レベルと残留/離脱との関係だ.
これによればイギリス独立党を除く全ての各政党支持者の教育レベルが高いほど
残留を支持するという結果だ.
yougov.co.uk
教育レベルと年収には正の相関があることはよく知られた事実だが,
それを踏まえれば極自然な結果と言えよう.
不満層は移民排斥に流れやすい.「全てはあいつらのせいだ」と.
裏を返せば,高収入の層にとっては現状が良いはず,でもある.

一方,「トランプ大統領」が現実味を帯びてきたアメリカでは,こんな面白い動きがあった.
トランプが大統領になるくらいなら,アメリカを出たほうがマシだ,という.
www.afpbb.com
世界中から人を受け入れ,まさにそのことによって
世界中の頭脳もカネも集まった自由の国アメリカにおいて,
移民流入を防ぐ万里の壁「トランプ・ウォール」を作ると言っている.
(それもメキシコ負担で,ってところがちゃっかり.)

かのホーキング博士も
「最も低レベル層の大衆が支持する扇動政治家」なんて,
もう歯に衣着せぬ言いっぷり.因みに博士もEU残留派だ.
www.huffingtonpost.jp

フランスではパリでの連続テロの後,
ルペン氏が率いる「国民戦線」が支持を広げている.
www.newsweekjapan.jp

哲学の国ドイツでも極右政党AfDが躍進した.
gendai.ismedia.jp

遡ればハンガリーが近年,憲法改正を行ったのだが,
民主主義の危機として世界から批判を浴びている.
その憲法がまた,自民党,いや,日本会議が作った憲法草案に
目指すところが実によく似ている点は,特筆に値する.
newsphere.jp

こうして改めて見回すと,世界は理性を失いつつあるのがよく分かる.
経済が立ち行かなくなったとき,国が国としての形を保つためには,
つまり国を形づくる民衆をまとめ上げる最も安易な方法は,
「強い国家像を掲げるナショナリズム」であることは,
人類の歴史が幾度となく世界中の至る所で繰り返し示してきた.

21世紀になっても結局,その手法から人類は卒業できないでいる.

あるいは人間の寿命がわずか一世紀にも満たないこと,
そのことが人類の次なるステップを妨げているのかもしれない.
(だから人類の知的寿命を飛躍的に伸ばす一つの現実味のある方法が
 人工知能なんだと妄想しているが,その辺りは別の機会に.)

いずれにしても,人々の間にある経済格差はQOLの格差,特に教育格差を生み,
ひいては理性の格差を生んでいる.
イギリスを二分した今回の投票もこの理性格差の反映だとも見える.
その対立の構造は今や先進国の至る所で見られる.
もちろん我々の国も例外ではない.


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兎にも角にもトランプ氏曰く「強い,偉大なアメリカを再び」だそうだ.
おやおゃ~,どっかで聞いたフレーズだなぁ.


【自民党 新CM(30秒Ver.)】「日本を、取り戻す。」

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議の全貌  知られざる巨大組織の実態

日本会議の全貌 知られざる巨大組織の実態

残念な国(8-b)―そして市民は育たなかった

前回の続き.
tokidoki.hatenablog.jp

自民党憲法草案,あるいは正確には「日本会議草案」である改憲案について.
日本会議 - Wikipedia

「みんな,良い子になろう!」という宣言書のような草案,
息苦しさと同時に腹立たしさを感じると前回書いた.
今回はその腹立たしさについて.

沢山のサイトで現憲法と草案との比較をしている.例えば↓
satlaws.web.fc2.com

前文においても個人の基本的人権のウエイトがぐっと下がった書きぶりだったが,
個々の条文においても「個人」の「個」が徹底的に消されている.
典型的なのが13条だ.

【現憲法】
第13条
すべて国民は,個人として尊重される.
生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,
立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする.


【草案】
第13条(人としての尊重等)
全て国民は,人として尊重される.
生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公益及び公の秩序に反しない限り,
立法その他の国政の上で,最大限に尊重されなければならない.

なぜ「個人として」ではなく「人として」なのか.なぜ「個」を取り去る必要があるのか.
はて,「人として」とは?
例えば奴隷のように働く「ブラック○○」は「人として」だとOKになるんじゃないか?
今だって社会風潮として「個人」としての権利が剥奪されているような労働環境に,
丁度いい口実を与えてしまうのではないだろうか?
何より「個人」を「人」にしてしまえば,「個人」の概念の確立したヨーロッパと異なり,
この国の国民性を考えると,あっという間に日本の個人は社会に呑みこまれてしまうだろう.
(それは「日本人ならぜいたくは出来ない筈だ!」とか「進め一億火の玉だ」とかやっていた,
「国民精神総動員」が施行されたとき,率先して国民が行動した戦前・戦中を思えば想像に難くない.
 いや,今だって「○○バッシング」はネットの上で,マスコミの上で様々に行われている.
 何しろ,「右向け右」の国民性は変わっていないのだから.)

「行き過ぎた個人主義への反省」という一見穏やかに聞こえる見解が草案に対するQ&Aに見られる.
「個人として尊重される」ことを根拠に際限ない個人的な権利主張がこの国本来の社会風土を変え,
核家族化,あるいは少子化を招き,プライバシー権の下,
地域社会の崩壊をはじめとする人々のつながりが断ち切られていった,
といった論調の議論がなされる.
そしてこの行き過ぎた個人主義を抑えるべく,12条でこんな文言が入っていた.

【現憲法】
第12条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によつて,
これを保持しなければならない.
又,国民は,これを濫用してはならないのであつて,常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ.


【草案】
第12条(国民の責務)
この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力により,保持されなければならない.
国民は,これを濫用してはならず,自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し,
常に公益及び公の秩序に反してはならない.

「公の秩序に反してはならない」
息苦しくはないだろうか?いや,むしろ怖くないだろうか?
憲法にこれを書くということは,「公の秩序」の名の下,我々を縛る法案が作りやすくなるということだ.
たとえ草案を作った当人等に縛る気が無いのだとしても,だ.
先に述べた「国民精神総動員」は当時の「公の秩序」として働いたのではなかろうか?

それにしても,なぜ「学級目標」のような草案になっているのだろう?
「良い子でいなさい.そうすればあなたの自由や権利は奪わないから.」
それはつまるところ,「個人」の概念の根底にあるヨーロッパ思想に基づく「天賦人権説」が
この国に根付かなかったことにあるのかもしれない.
いや,正確に言えばこの国は「国民」あるいは「大衆」を育てはしたものの,
「市民」を育てようとはしてこなかったことが真の原因のように思える.
すなわちこの国の主権者としての「自立性」「公共性」「能動性」を持った市民として,である.
(たとえば選挙の投票率の低さを思い出そう.)

よくテレビドラマなどでの「勉強シーン」として歴史の年代をゴロで暗記したり,
方程式を解いたり,英単語をつらつら書き連ねたり,といったことをやるのだが,
「勉強とはああいった作業のことだ」と多くの人々が信じているから成り立つシーンだ.
けれど例えば年代を覚えることが重要なんじゃない.
その時代に何が起こり,その結果人々はどう動いたのか,
そのことから現代の我々は何を学べるのか,それが重要なのであって,
年代はあくまで歴史の順序を把握するための物差しに過ぎない.
年代をすらすら答えられると,さも優秀な人間のように描写されるが,
鎌倉幕府ができたことは日本の歴史上どんな意義があったのか説明でき,
あるいは今日の我々にどんな影響を与えたのか解釈できるほうがはるかに優秀だ.
(因みに昔は1192(イイクニツクロウ)だった年号がこの頃は1185(イイハコツクロウ)に変わったそうだ.
 ほらね,だから年号は物差しに過ぎないんだって.)

つまり戦後世代を受験戦争に駆り立て,「○ or ×」の競争に明け暮れているうちに,
すっかり「自立性」や「能動性」を失った大衆ができあがる,という仕組みなわけだ.
今や(政治家も含めて)社会全体が「学校化」している.
かつては与党内野党があって政治的緊張感の中,
上手く党内のバランスを取りながら行われていた自民党の政治だったが,
今やトップの意向一色となり,やはり「学校化」しているように思う.
そうして振り返ってみると,果たして国に「市民」を育てる気があったのだろうか,と疑ってしまう.
ともすると「市民」が育たぬように組織的に仕組まれてきたのでは,などとも.

日本会議の人たちはほくそ笑んでいるのかもしれない.
「戦後70年間,アメリカの言うとおり自由にしてやったじゃない.
 でも結果,国民がルールを守らず権利ばかり主張するロクでもない国になったでしょ.
 やっぱりこの国にはこの国のやり方があるの.
 天皇陛下を頂点に戴く,お国の為に皆が働く美しい国に戻りましょう.」


敗戦と同時に掌を返すようにアメリカナイズしていったこの国で(ほら右向け右でしょ),
虎視眈々と復活の時期を窺ってきた巨大な政治思想団体「日本会議」.
例えば私的に参拝すればよいものをわざわざ閣僚として参拝を続ける靖国問題.
何故この国最大の不幸を招いたA級戦犯が合祀された場所へ出向くのか.
国策によって亡くなった人々を弔うだけなのなら,何故,分祀しないのか.
この政治思想団体「日本会議」に,
今なお安倍首相をはじめとする現閣僚の3/4が属していることを考えれば,
これ以上何の説明もいらないだろう.
安倍首相の顔写真ともに「日本を取り戻す」と書かれた自民党ポスターがあった.
けれど彼らの云う「日本」とは「日本会議」が思い描く「日本」だ.
そしてそれは太古の日本ではなく,明治以降の「大日本帝国」である.
個人の基本的人権より国家の存在が優先されたあの国なのだ.

草案の第98条には「緊急事態条項」が新設される.
「緊急事態条項」が現憲法に無いから,災害時の初動が上手くいかない,
といった真しやかな議論が主に日本会議の人びとによってなされ,
うっかり「そりゃそうだ」と納得する国民も少なくないと思う.
同様な論調と新しい世代の誤解による同調は
「安保法案」や「憲法九条」にまつわる議論でも行われている.
だからこのタイミングで首都直下や南海トラフなどの未曾有の大災害が起こったなら,
国民が冷静な判断のできないどさくさに紛れて,
「新・大日本帝国憲法」が成立してしまうのではないかと不安に思う.
そう,確かに市民は育たなかった,その結末として.
webronza.asahi.com


最後に,日本会議トップによる「天皇陛下万歳」をお聞きいただこう.
皆は何を思うだろうか?

日本会議名誉会長・元最高裁判所長官・三好達による「天皇陛下万歳」(2016年2月11日)
www.nipponkaigi.org

「美しい国」という国家像を打ち出す安倍内閣.
でもその背後には大日本帝国へのノスタルジーに浸る政治思想団体がある.

一つ言えるのは「何を美しいと思うか,の自由」が保証されない国は
美しくない,ということだ.
f:id:okiraku894:20160409104102j:plain:w600
SONY ILCE-6000+Vario-Tessar T* E16-70mm F4 ZA OSS,
Lightroomにて現像

ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)