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四度堆積からの誘い(2)

4月にこのネタで書いてから随分経ってしまった.
tokidoki.hatenablog.jp
このときはTymoczkoの論文を読んだゼミ生の卒論が元となって書いたものだったが,
それ以後も折に触れ(特に毎朝のピアノにて)四度堆積は色々と観察してきた.
四度堆積というのは五度圏を逆に回ることでもある.
そしてそれは数理音楽的にみると極々自然に下方倍音という発想に至るものでもある.
ongakuriron.rulez.jp

四度堆積を4つ重ねた和音,第二音を上げ下げするだけで面白いことになる,
ってのは世間的に色々知られてるのだろうか.
まず第二音を半音上げるとこれがずっと気になっているトリスタン和音.
これはclosed voicingにすればいわゆるhalf diminished m7♭5というやつ.
そしてそれはまたルートから見た下方倍音列の最初の4つでもある.
でも今回書きたいのはこのことではないので,これは次の機会にでも.
f:id:okiraku894:20151231211047p:plain:w300

もう一方の面白いこと.それは第二音を半音下げることだ.
実は四度堆積で遊んでいて,ふとトリスタンと反対に半音下げて弾いたところ,
それがとてもJazzyな響きになって,「おやっ!」となったことに始まる.
これをコードでどう書くのかわからないけど.*1
f:id:okiraku894:20151231213829p:plain:w300
これ,EとB♭でtritoneになっている.クロマティック12音音階を丁度半分にする,
緊張度の高い音程で,西洋古典音楽では扱い注意の響きだ.
diminishedやAugmentationなど,等間隔に音が並んだ和音は緊張度が高く感じられる,
というのはCook氏らの研究にも述べられている.
(しかしそういえばトリスタンもtritoneを含んでいるね.)
The Psychophysics of Harmony Perception:Harmony is a Three-Tone Phenomenon

で,これどこかに使われてるかな,って探してみると,
例えばBill EvansのWaltz for Debby.
一番最後のオシャレなopen voiceのmaj7thが3つ続いた後の不思議な和音.
その辺にある譜面を見るとこれはC7 altと書かれているわけだけど,
altered scaleからtension一つとってきて載っけた和音と言われても,何だか.
音楽文脈的には四度堆積の変形と見るのは間違いかもしれないが,
もはや三度堆積和音からの解釈は意味を成さないと高らかに謳っているようだ.
そしてついでに最後の和音は完全に四度堆積.
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そもそも四度堆積そのままでの名曲,Miles DavisのSo whatで
それは宣言されたのだろうけど.

So What by.Miles Davis

でも,この四度堆積の第二音を半音下げる,何かで聴いたよなぁ~
って弾いてたら,緊急地震速報がこれなんだね.
これは四度堆積5つの第三音を半音下げて出来ている.
たったこれだけなんだけど,この危機感はなに?

*1:後に調べたらこれは C7omit5add+9 と書かれて,「ジミヘンコード」と俗称がついていた.

Moire Amore!(1)―現象編

むか~しむかし,あるゼミ生がモアレを題材に卒論を書いたことがある.
日付を見るともう8年も前,2代目の作品だ.tokidoki.hatenablog.jp
で今年の卒論,10代目となるのだが,
錯視の数理としてちっとも数学に乗ってこないゼミを1人行ってきた.
もとはベンハムのコマを数理的なモデルを立てて
色が見える仕組みの解明を目指していたのだが,
科学実験の枠を超えて数理モデルを立てるには未だ至らず.
(まじめにやると心理物理学とか生理光学とかにはまっていくし.)www.ncsm.city.nagoya.jp
拉致があかないので,
あるときから平行してモアレ現象で何かできないか探し始めていた.
ああ,あの干渉縞のことね,それなりに数式は立てられるだろうけど,
高校数学の練習問題ぐらいなんじゃない?と思われるだろう.
だが,中には結構面白い現象があるんだってことを最近知った.
なんと格子縞は拡大レンズの役割をするのだ.
初めは身の回りの品でモアレが起こる例としての下の動画の中で,
六方格子状に穴が並んだ板を重ねて回転させると
六角格子が拡大される現象から,おや?となったことに始まる.
モアレテスト - YouTube

あれっ,ってことは拡大レンズになるのかもしれない.
他にそんな実験してないか探したところ,例えば以下の動画などどうだろう.


Moire Lens/モアレレンズ - YouTube
同じ文字が細かく並んだシートの上に,同一ピッチで穴を開けたシートを載せると
小さな文字が拡大されて浮き出てくるのだ.な~んと.

で,ぼや~っと運転しながら考えてたら意味が分かってきた.
要するにこれは「粗視化」の一種なんだ.
遠くから見るという操作は,図形の高周波成分を短周期で積分してしまうと理解できる.
でもその前に自分の手の中でも実験したくなり,早速作ってみたよBASICで.
↓はその実験動画.前半は格子を微小角回転させて文字を拡大,
後半は格子のピッチを文字のピッチより縮小させて文字を拡大している.


拡大縮小モアレ模様 - YouTube

そしてそのソース.

REM
REM [Moire de expansion]
REM Ver. 2015/12/01
REM 左ドラッグしながら上にマウスを動かすと格子ピッチが縮小される
REM ドラッグしないで上に動かすと格子が左右に微小に回転する
REM

SET WINDOW 0,1,0,1
SET TEXT font "",7
LET dt=.01

! 下地となる文字模様画像作成
INPUT  PROMPT "Character":c$
FOR x=0 TO 1 STEP dt
   FOR y=0 TO 1 STEP dt
      PLOT TEXT ,AT x,y:c$ ! 拡大したい文字
   NEXT y
NEXT x
! このBasicファイルと同じ場所に下地となる文字模様画像を保存
gsave "moire.png"

! 画面のピッチに合わせて変更のこと(BASIC画面801×801では 6 が丁度良い).
SET LINE width 6
pause
DO
   mouse poll mx,my,left,right
   SET DRAW mode hidden
   CLEAR
   gload "moire.png"
   IF left=1 THEN
      LET e=1+my/10
      LET sx=mx/100
      FOR x=0 TO e STEP dt*e
         PLOT LINES: x+sx,0; x+sx,1
      NEXT x
      FOR y=0 TO e STEP dt*e
         PLOT LINES: 0,y+sx; 1,y+sx
      NEXT y
   ELSE
      LET sy=my/100
      LET sx=SIN((mx-.5)*PI/10)
      FOR x=0 TO 1 STEP dt
         PLOT LINES: x+sy,0; x+sy+sx,1
      NEXT x
      FOR y=0 TO 1 STEP dt
         PLOT LINES: 0,y; 1,y-sx
      NEXT y
   END IF
   SET DRAW mode explicit
   WAIT DELAY .1
LOOP UNTIL right=1
END

さて,これをどうやって数式で理解するか.それは次回に.

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立秋過ぎてなおお仕事

学生はすっかり夏休み気分なわけだが,我々はこれからがひと仕事.
高大連携スクールと教員免許更新講習.
今年も恒例のネタ,といくつもりだったが,
れいの「教科学」で発掘したいくつかのネタを盛り込みたくなった.

↓Genaille-Lucasの計算棒.わざわざミシン目も入れてその場で遊べるようにした.
f:id:okiraku894:20150807170152j:plain:w400,left


このおもちゃの詳細は↓tokidoki.hatenablog.jp

またネイピアの計算盤もやるつもりなのでおはじきを確保.
高校教員らが算数セットのおはじきで遊ぶんだよ.
f:id:okiraku894:20150807170446j:plain:w400,left


で,話の入りはオープンキャンパスで「つかみはOK」的な反応のあった話から.
f:id:okiraku894:20150812092645g:plain


そしてもちろん,もう10年以上つかっている「なんちゃって計算機」も投入.
f:id:okiraku894:20150811193343j:plain:w400,left

ま,反応はそこそこだったかな.
そうそうそれと何か見たことある顔だな~っとおもっていたら,
かつて講義をした学生らが10年研修で今回講義を取っていた.赴任して12年だからね.

いずれにしても,教員も生徒も学生も,
リアルに手足を動かしての数学を体験する機会が少な過ぎる.
そんな思いもあっての今回のプログラム.何か残せたかな.

ってわけで,二日連チャンのお仕事終了,今日から休み!
気になっている研究ネタがあるので,お盆はそれに集中.

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おっと,気付けばこんな書き込みが→
今度は冬呑みっすね,五代目の諸君.

芸は身を滅ぼす?(3)

石取りゲームシリーズ@教科学,第3弾.
石取りを再び一山にする代わりに,
「直前に相手が取った石の数の二倍までOK」ルールにすると,
途端に数論的に面白いことが起こり始めることを知った.
[Flash] 2011年 11月号 必勝法を探せ!(その4)
そして教材にもなっていた.
フィボナッチ数を用いた教材開発とその実践

ゲームの分析はニムと同じ発想だけど,
土台となる数系がフィボナッチ数による不等進数なんだ.
つまり,あらゆる自然数は番号が隣り合わないフィボナッチ数の和で
一意的に表されるという事実だ.
f:id:okiraku894:20150621223744p:plain

実はじっと一次元回転力学系を眺めていると自然にZeckendorfの定理に,
あるいはよりもっと一般化すれば連分数展開から自然に導かれる,
Ostrowski numerationにいたるのだけど,
そんな現象が石取りゲームに現れるってところが面白い.

で,もちろんScratchで作った.そして学生らに対戦してもらった.
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埋め込んでおくね↓
初めはフィボナッチ進数表示されないけど,
左上青い四角をクリックすると現在の石の個数がフィボナッチ進数表示される.

振り返ると数論的現象に関わる自分のアイディアの多くは
回転力学系の観察から出てきている.
(あの12音クロマティックスケール内のダイアトニック7音の配置の理由も,
 この回転力学系の観察から得られるんだ!)
DSpace at 愛知教育大学: A Dynamical Characterization of Myhill's Property

一方でこの不等進数のアイディアは何らかの力学系を「繰り込み」分解する
ひとつの指針を与えるようにも思える.
思えるよなぁ~と気付いてから数年が経つのだけど,未だ形にならず.

シリーズにするつもりじゃなかったんだけど,(3)とな.tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp

芸は身を滅ぼす?(2)

また作っちゃったから遊んでくれっていう記事.
前回の「芸は身を滅ぼす?」に続き,ついついはまり込んでしまった.tokidoki.hatenablog.jp

れいの「教科学」ではこのところ数回かけて,いわゆる数理パズル・ゲームを通して
その裏にある歴とした数理に触れてもらおうという企画で進めている.
もちろん流れとして当然出てくる複数山石取りゲーム,いわゆるニムゲームをScratchで作った.
これ何とか間に合わそうと直前の朝3時半まで作っていたもの.
f:id:okiraku894:20150614163535p:plain
ここに埋め込んでおくね.

実際にその場で試行錯誤で対戦できるとあって,何人かが講義中にあれこれ試してくれた.
まぁ,作った甲斐があるというもの.

おっと,ついでにこれまでのScratch作品集はここに.scratch.mit.edu

このニムゲーム,数学者Boutonによる二進数のXOR演算を使った見事な解法があるのだが,
普通はこの見かけ上の石取りゲームとギャップがあると感じるだろう.
そこで何か中間的なゲームは考えられないかと模索して次のゲームを考えた.

【スイッチゲーム】
数ケタの二進数3つを用意する.この数字を交互に次のルールで書き直していく.
【ルール1】3つの二進数から一つ選ぶ.その数に含まれる幾つかの 1 を 0 に書き換えられる.
【ルール2】1 を 0 に書き換えたら,それより右にある桁は 1→0 や 0→1 に自由に書き換えて良い.
【勝敗】書き換えられなくなったほうが負け

このゲームは例えば次のように進行する.
f:id:okiraku894:20150614170646p:plain

で,ここに出てくるニム和は以下の如く定めておくわけだ.
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これらをじっと見て,必勝法が見えてくるだろうか?
少なくとも実際に自分と対戦してみた学生は何度かやってみるうちに悟ったようで
必勝法を見つけていった.

さて今度は「2倍取りゲーム」でFibonacci列の華麗な世界へ突入しようと思う.
が,教科学もそろそろ息切れしてきた.ちょっと休みたい...


ところでこういった数理ゲーム,ゲーム理論でも有名なあのJohn Nashが
とても素敵なアイディアを沢山残していってくれている.
もっともNashは決してゲーム理論をライフワークにしていたわけではなく,
リーマン多様体の研究者であり,一方でリーマン予想にも深く足を踏み入れていった人だ.
でもなぁ,博士課程とその数年間のゲーム理論研究でノーベル経済学賞獲っちゃうわけで,
天才がやることってそういうことなんだよなぁ...

A Beautiful Mind: Genius and Schizophrenia in the Life of John Nash (English Edition)

A Beautiful Mind: Genius and Schizophrenia in the Life of John Nash (English Edition)

そしてつい先日,何ということでしょう,交通事故で亡くなってしまわれたのでした.matome.naver.jp