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残念な国(4)―つまり様式美ということですか?

いやぁ,傾(カブ)いてたね,国会.
結局,幼稚園のお遊戯会で幕を閉じたんだね.

だけどね,振り返ってみて色々考えさせられたよ.
何より,憲法というものを恥ずかしながら生まれて初めて真剣に考えてみたよ.
そしてきっと,自分と同年代の多くの皆さんもそうだったのではないかと勝手に想像している.
自分にとって何よりショックだったのは,
憲法審査会での与党推薦を含めた学識者三人すべてが
「集団的自衛権」を行使する今回の法案を「違憲」と判断しているにも拘らず,
その後は当審査会を開催せず一切封印してしまったことだった.
何だろうな,ふと焚書坑儒を思い浮かべてしまったよ.全くもって見事な反知性主義だね.
web-saiyuki.net

実際のところ,安保法案の中身そのものについて自分は賛成も反対もしてるわけじゃないんだ.
というのも実際のところ,何が本当に変わるのか起こってみないと分からないからだ.
ただ,あいかわらず「なんちゃって民主主義」で終わってしまう,
この国の空気が残念で仕方ないんだ.
そして与党内野党,つまり実質的に野党の役割をしていた
自民党内の「モノ申す」派閥が無くなってしまったこと,
自民党の大政翼賛会のような空気が気味悪くて仕方ないんだ.
それは特定秘密保護法案が通ったときにも感じたことなんだけどね.

国際情勢の急激な変化の中,一市民の自分の想像をはるかに超えて
実際,事を急がねばならない事情がきっとあるのでしょうね.
それでも,かの大戦の記憶の残っている人たちが物申せた時代なら,
少なくとも今回の法案を時限立法にしたんじゃないだろうか.
例えば3年あるいは5年に限った法案として,その間に国民の間で十分な議論を行う.
憲法改正からやっていたのでは間に合わないのだとしても,
とりあえず期限付きで運用して,その間に国民のコンセンサスを形成するやりかたは
ありえなかったのだろうか?

どちらにしても,憲法学者93%以上(報道ステーションアンケートに基づく推定値)
が「違憲」と判断している中で,対話ではなく終始「説明」だけに留まった政府のやり方,
これほどあからさまな子供じみたやり方は多分過去に例がないんじゃないだろうか.
(つまりかつての「大人」が居た自民党だったらもっと上手くやってただろう.)
大体,採決直前の公聴会って何のためにやるのさ.先の憲法審査会と同じノリだよね,それ.
あ,因みにその推定問題は今年の確率統計に出したんだよ.

さて,でも憲法学者はどのように「違憲」と判断しているのか,
「偉い人が言ってるから」で終わらせてちゃ「なんちゃって」だね.
で,一つリンクを.

こんな風に憲法学的に通常の読み方をすると「違憲」になってしまう.

でも,更にそれに対し異論を唱え,憲法を未来に開かれた道具として捉える,
もう一つ上の次元の議論をする人もいた.
必要に応じ,時代の状況に応じ,憲法を柔軟に改憲する文化のある国に対し,
「解釈改憲」という文化もあっても良いんじゃないか,という提案.

そうなると良いなとは思う.
でもねこれ,改憲する文化より遥かに高度な民主的な市民でないと難しいだろうな.
少なくともまずい発言が出たら真正面から議論することなく蓋をしてしまう政府や,
「戦争法案」と一般市民の不安に訴え掛けやすい文言で議論をすり替えてしまう野党とでは
解釈改憲の文化なんて夢のまた夢のように思えてしまう.

主権者の国民が選挙で選んだ代表者らに権力を付託したとき,
その権力が暴走せぬよう制限し主権者たる国民の人権を保障するってのが憲法なんだね.
随分長い間,人類はわずかな独裁者の下でまとまって社会を成してきたのだけど,
ようやく近代になって個人からなる社会を作るところまできた.
その文脈の中で憲法を端的に表した言葉があるそうだけど,
誰が言った言葉なのか結局辿れなかった.

人類の進化の歴史がDNAに刻まれているとすれば,
人類の英知の歴史は憲法にこそ刻まれていると言うべきでしょう.
平和憲法のメッセージ

www.iacl-aidc.org

何にしても政府が国民に「腹を割って」正直に語りかけてくる時代って,
この「様式美」(要するにお約束)の国に訪れるのかなぁ.
あるいは「しょうがないじゃん」と諦めて,長いものに巻かれやすい国民性からして
一億人レベルでの民主主義はムリなのかなぁ...

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残念な国(3)―「丁寧な説明」

【問1】報道ステーションが去る6月に憲法学者ら198人にアンケートをとり,151人から回答を得た.その第1問,「一般に集団的自衛権の行使は日本国憲法に違反すると考えますか?」について,151人中4人が「憲法違反の疑いはない」と答えた.
この結果から日本全体の憲法学者のうち何%が合憲と判断するか信頼度99%で区間推定して下さい.

これは今年度の「統計とコンピュータ」にて出題した最終チェック問題の一つだ.
母比率の推定を行え,という問題なわけだが,まぁその答えは
f:id:okiraku894:20150829143155p:plain
となる.実際は数学的な前提,「確率変数」(この場合は憲法学者一人一人の回答)
が互いに独立である,つまり
「憲法学者たちが互いの意見に影響されず独立に判断していること」が必要だ.*1
その前提が満たされているとするなら,この国の憲法学者ら全員に尋ねても99%の確率で
高々6%が「合憲」と判断するという意味になる.
もちろん,いま目の前で異常なことが起こっているんじゃないかぃ,
と学生らに気付いて欲しいという意図アリアリで出題したのだけど,
そもそも肝心の問題に手を付けてもらえていなかった,それこそ高々6%も無いくらいに.
合掌.


しばしば有識者と呼ばれる人たちが政府に招かれ,述べた見解を「参考」にし,
ときには政府方針補強に利用されるわけだけど,
自民推薦の有識者含めた3者全員から「違憲」と批判されて以来,
憲法審査会は結局開かれなかったのだよね.こうして臭いものには蓋をしちゃうんだね.
web-saiyuki.net

PKO法案ですら数回の国会をまたいで議論され,
そうして「まがりなりにも」時間を掛けたことで,
ある意味その歴史的転換に国民も参加できていたのだが,
閣議決定されてからわずかひと月余りのうちに成立した「特定秘密保護法案」にはじまり,
いよいよこの9月中旬に参議院可決されてしまうであろう話題の安保法案という具合に,
「丁寧な説明」を行い,「粛々と」ことを進めていくわけだ.
そして「説明」という時点で「国民とは対話はしないよ」とも言っているだよね.
まぁしかし,これほどまでに大事な転換点に主権者たる国民を正面から参加させないやり口に,
息の軽い,哲学の無い,筋を通さない政治に,多くの人が憤っているのは確かだ.

生きる場所と考える自由を守り,創るために,
私たちはまず,思い上がった権力にくさびを打ちこまなくてはならない.

  自由と平和のための京大有志の会「声明書」より

www.kyotounivfreedom.com

先の大戦前夜,世界恐慌によって国は困窮し人々は不景気に喘いだ.
活路を見出すべく,国粋主義,全体主義がこの国を覆った.
「ネトウヨ」と呼ばれる人たちの書き込みを見る度,
あの大戦前夜もこんなふうに閉塞し鬱屈した空気だったのかもしれない,と
とても嫌な暗い気持ちになる.

反知性主義が蔓延って久しいこの国で,
憲法学者らによる政治イデオロギーから独立した
純粋に学問的観点からの指摘が最後の灯だった,
となってしまいませんように.
合掌.

そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,
その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,
その福利は国民がこれを享受する.
これは人類普遍の原理であり,この憲法は,かかる原理に基くものである.
われらは,これに反する一切の憲法,法令及び詔勅を排除する.

 日本国憲法 序文より

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ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

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*1:テクニカルな要請として「サンプル数×標本割合≧5」が必要だけど,いまの場合4なのでちょっと足りなかった.

残念な国(1)

まとまった主張として書けるようなものではないのだけど,日々溜まってしまうやるせなさを
ときどきは洗い流しておかないと,というシリーズ.

例えば国家的無駄遣いを止められない仕組みについて.
今の時期なら国立競技場がすぐに思い浮かぶだろう.

"ラグビー好きなひとりの思惑と文科省,その文科省から出向したJSCとが,
二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアム建設予算を
アンビリーバボーな二五二〇億円にまで押し上げた.実にぼんくらな仕事ぶりである."
(下記本文より)
diamond.jp

こういったぼんくらぶりは政府外郭団体でよく見られることである.
自分の趣味に関連したJASRACの笑い話で有名なのが以下.
どうやって1000年前の人に著作権料を払うつもりだったのだろうね.
www.itmedia.co.jp

これらはいずれも文科省に関わる話題なのだが,
大学人にとって深刻なのがここ数年大学側に通達されている,
ミッションの再定義ってやつだ.これも騒がれてきた話題.
メディア的には「文学部っていらないんじゃないの?」って文科省が言ってるよってノリ.
blogos.com
哲学を失い,文学を失い,イデオロギーとは無関係な視点で
歴史を顧みられなくなった中枢がこの先なにをやらかすか,
私たちは心してよく見ておかねばならない,と改めて思った.

で,この話の出所を探ってみた.どうやらこの辺にあるらしい.
「マスコミ的」に自分の主張に都合の良い部分だけを取り上げてみよう.

だからこそ,私は,教育改革を進めています.
学術研究を深めるのではなく,もっと社会のニーズを見据えた,
もっと実践的な,職業教育を行う.
そうした新たな枠組みを,高等教育に取り込みたいと考えています.
(平成26年5月6日 OECD閣僚理事会 安倍内閣総理大臣基調演説より)

ところがこの文章の前後を含めて読むと,
この件については随分誤解されているようにも思われるのだ.
というのもその直前,CDの直径が12cmに決定された有名な理由について安倍首相は引用し,
学問をより総合的に捉えて我々は動いていかねばならないという趣旨を述べているからだ.

「エンジニアリングだけがイノベーションを生み出す」という発想を,
まずは捨てねばなりません.
社会は複雑化しています.経営学や心理学の知見,文化への造詣など,
幅広い素養が求められる時代です.
www.kantei.go.jp

一体この発言からどうやると「文学部いらない」になるのだろうか?
安倍首相を全く支持していない自分だが,
この件に関しては文科省に,正確に言えば「財務省の言いなりの文科省」に
「言質」を取られたのではないか,と思ってしまった.
つまり,発言の一部だけを抜き出して国公立大学への出費を
更に控える口実にされてしまった,ということだ.

まぁもっとも震災後オリンピック誘致で,汚染水ダダ漏れなのに
福島原発が"The situation is under control."とシャァシャァと言える舌だから,
実際のところその真意は分からない.

それは例えば18歳選挙権引下げをごく短期間に成立させた真の狙いは,
政治的中立性逸脱時の教職員への罰則規定が表す「圧力」にあったのか,
という勘繰りと似たような事態だ.
www.sankei.com

それにしてもなぁ,矢継ぎ早に政府が成立させていく仕組み,
たとえ政府自身にその気が無かったのだとしても,
ファシスト的な団体が潮流に乗ってふと台頭したなら,
実に支配しやすい仕組みを整えつつある,
と思えてならないのが杞憂であってほしいな.
ただでさえ全体主義的なものに流されやすい国民性なのだから.

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