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四度堆積からの誘い(2)

4月にこのネタで書いてから随分経ってしまった.
tokidoki.hatenablog.jp
このときはTymoczkoの論文を読んだゼミ生の卒論が元となって書いたものだったが,
それ以後も折に触れ(特に毎朝のピアノにて)四度堆積は色々と観察してきた.
四度堆積というのは五度圏を逆に回ることでもある.
そしてそれは数理音楽的にみると極々自然に下方倍音という発想に至るものでもある.
ongakuriron.rulez.jp

四度堆積を4つ重ねた和音,第二音を上げ下げするだけで面白いことになる,
ってのは世間的に色々知られてるのだろうか.
まず第二音を半音上げるとこれがずっと気になっているトリスタン和音.
これはclosed voicingにすればいわゆるhalf diminished m7♭5というやつ.
そしてそれはまたルートから見た下方倍音列の最初の4つでもある.
でも今回書きたいのはこのことではないので,これは次の機会にでも.
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もう一方の面白いこと.それは第二音を半音下げることだ.
実は四度堆積で遊んでいて,ふとトリスタンと反対に半音下げて弾いたところ,
それがとてもJazzyな響きになって,「おやっ!」となったことに始まる.
これをコードでどう書くのかわからないけど.*1
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これ,EとB♭でtritoneになっている.クロマティック12音音階を丁度半分にする,
緊張度の高い音程で,西洋古典音楽では扱い注意の響きだ.
diminishedやAugmentationなど,等間隔に音が並んだ和音は緊張度が高く感じられる,
というのはCook氏らの研究にも述べられている.
(しかしそういえばトリスタンもtritoneを含んでいるね.)
The Psychophysics of Harmony Perception:Harmony is a Three-Tone Phenomenon

で,これどこかに使われてるかな,って探してみると,
例えばBill EvansのWaltz for Debby.
一番最後のオシャレなopen voiceのmaj7thが3つ続いた後の不思議な和音.
その辺にある譜面を見るとこれはC7 altと書かれているわけだけど,
altered scaleからtension一つとってきて載っけた和音と言われても,何だか.
音楽文脈的には四度堆積の変形と見るのは間違いかもしれないが,
もはや三度堆積和音からの解釈は意味を成さないと高らかに謳っているようだ.
そしてついでに最後の和音は完全に四度堆積.
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そもそも四度堆積そのままでの名曲,Miles DavisのSo whatで
それは宣言されたのだろうけど.

So What by.Miles Davis

でも,この四度堆積の第二音を半音下げる,何かで聴いたよなぁ~
って弾いてたら,緊急地震速報がこれなんだね.
これは四度堆積5つの第三音を半音下げて出来ている.
たったこれだけなんだけど,この危機感はなに?

*1:後に調べたらこれは C7omit5add+9 と書かれて,「ジミヘンコード」と俗称がついていた.

徒然にて候

今年は全くネタとして成立していない卒論が二つ,
バカバカしいと思いつつも形のあるものにすべく呑気な学生を横目に勝手に格闘している日々.
全くもって孤独な闘いである上に,そもそも引き受けなくても良い苦労である.
この頃,本当によく眠れない.今日も5時に目が覚めてしまった.
それでも寝ぼけ眼の中,小さいながらも書けそうな結果を出す.
それが二つのうちの一つ.しかしもう一方は本日のゼミ,当人不在.
いわゆる世間並みの「特別な日」だからだそうだ.
全くもってバカバカしい.バカバカしさの極みだ.
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それでも今年度10代目ゼミ生の指導では,
過去10年の指導を改めて見つめなおす契機となることが多かった.
相手が全く意図通りにならないとき,そもそも意図そのものが理解されないとき,
こちら側はどう力を抜くか,そしてどの程度待つのか.
初めは絶望的に稚拙に見えても,よくよく相手を観察すること.
そしてとにかく出来そうなところをきっかけにしてもらうこと.
エンジンのかけ方,スイッチの入れ方は学生ぞれぞれ皆違うこと.
一旦エンジンがかかると,ときには凄いことが出来てしまうこと.
そして結局のところ,学生一人一人の力を信じてみること.

ま,楽観視なんてとてもできない.年明け,バタバタなんだろうな.

さてさて,そろそろ年の瀬.
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半年もするといろいろ書き込まれている
研究室入り口のホワイトボード.
そろそろクリアーしますか,一度.


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そして,鏡餅風チロル.
このごろはまたこうしてお菓子持参で現れる学生がいてくれて色々有り難い.


そんでもって仕事の帰り際,ふと見上げたら満月がArtisticだったから撮った.
なんでも38年ぶりだそうだ,X'masの満月.
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いずれもILCE-6000+Sony E 35mm f1.8, Lightroomにて現像

Moire Amore!(1)―現象編

むか~しむかし,あるゼミ生がモアレを題材に卒論を書いたことがある.
日付を見るともう8年も前,2代目の作品だ.tokidoki.hatenablog.jp
で今年の卒論,10代目となるのだが,
錯視の数理としてちっとも数学に乗ってこないゼミを1人行ってきた.
もとはベンハムのコマを数理的なモデルを立てて
色が見える仕組みの解明を目指していたのだが,
科学実験の枠を超えて数理モデルを立てるには未だ至らず.
(まじめにやると心理物理学とか生理光学とかにはまっていくし.)www.ncsm.city.nagoya.jp
拉致があかないので,
あるときから平行してモアレ現象で何かできないか探し始めていた.
ああ,あの干渉縞のことね,それなりに数式は立てられるだろうけど,
高校数学の練習問題ぐらいなんじゃない?と思われるだろう.
だが,中には結構面白い現象があるんだってことを最近知った.
なんと格子縞は拡大レンズの役割をするのだ.
初めは身の回りの品でモアレが起こる例としての下の動画の中で,
六方格子状に穴が並んだ板を重ねて回転させると
六角格子が拡大される現象から,おや?となったことに始まる.
モアレテスト - YouTube

あれっ,ってことは拡大レンズになるのかもしれない.
他にそんな実験してないか探したところ,例えば以下の動画などどうだろう.


Moire Lens/モアレレンズ - YouTube
同じ文字が細かく並んだシートの上に,同一ピッチで穴を開けたシートを載せると
小さな文字が拡大されて浮き出てくるのだ.な~んと.

で,ぼや~っと運転しながら考えてたら意味が分かってきた.
要するにこれは「粗視化」の一種なんだ.
遠くから見るという操作は,図形の高周波成分を短周期で積分してしまうと理解できる.
でもその前に自分の手の中でも実験したくなり,早速作ってみたよBASICで.
↓はその実験動画.前半は格子を微小角回転させて文字を拡大,
後半は格子のピッチを文字のピッチより縮小させて文字を拡大している.


拡大縮小モアレ模様 - YouTube

そしてそのソース.

REM
REM [Moire de expansion]
REM Ver. 2015/12/01
REM 左ドラッグしながら上にマウスを動かすと格子ピッチが縮小される
REM ドラッグしないで上に動かすと格子が左右に微小に回転する
REM

SET WINDOW 0,1,0,1
SET TEXT font "",7
LET dt=.01

! 下地となる文字模様画像作成
INPUT  PROMPT "Character":c$
FOR x=0 TO 1 STEP dt
   FOR y=0 TO 1 STEP dt
      PLOT TEXT ,AT x,y:c$ ! 拡大したい文字
   NEXT y
NEXT x
! このBasicファイルと同じ場所に下地となる文字模様画像を保存
gsave "moire.png"

! 画面のピッチに合わせて変更のこと(BASIC画面801×801では 6 が丁度良い).
SET LINE width 6
pause
DO
   mouse poll mx,my,left,right
   SET DRAW mode hidden
   CLEAR
   gload "moire.png"
   IF left=1 THEN
      LET e=1+my/10
      LET sx=mx/100
      FOR x=0 TO e STEP dt*e
         PLOT LINES: x+sx,0; x+sx,1
      NEXT x
      FOR y=0 TO e STEP dt*e
         PLOT LINES: 0,y+sx; 1,y+sx
      NEXT y
   ELSE
      LET sy=my/100
      LET sx=SIN((mx-.5)*PI/10)
      FOR x=0 TO 1 STEP dt
         PLOT LINES: x+sy,0; x+sy+sx,1
      NEXT x
      FOR y=0 TO 1 STEP dt
         PLOT LINES: 0,y; 1,y-sx
      NEXT y
   END IF
   SET DRAW mode explicit
   WAIT DELAY .1
LOOP UNTIL right=1
END

さて,これをどうやって数式で理解するか.それは次回に.

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3連チャンでイベント

数年前はしょっちゅう行われていたイベント.
この頃は半年に一度か,というペースだったが,この三週間は立て続けにイベント.

第1弾はピザ一族らしくPizza Hutのクーポン利用にて.
このときは4人で3枚が丁度良かった.
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f:id:okiraku894:20150616130630j:plain:w200,leftf:id:okiraku894:20150616130646j:plain:w200,left

第2弾はおよそひと月前から計画していたスバカマナ.
ランチでチーズナン一人1枚はさずがに重かった様子.
(あ,でも御一方はペロリと食べてしまったよ!)
何しろ大学に戻ってからの講義,腹いっぱいでもう眠い眠い.
(そしてもらった写真つかわせてもろたよ.)
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第3弾は突然二日前に卒業生から「やろう」と連絡が.
こちらはタコ焼きのちクレープ.研究室,月曜まで臭いが充満してそう...
しかしなかなか教員,大変なようで色々と愚痴っていたなぁ...
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まぁ,何にしても皆様,お付き合いいただき,アザーッス!

r.gnavi.co.jp

四度堆積からの誘い(1)

その昔,Debussyが音楽院の学生だった頃,
完全四度を積み重ねた和声による音楽をまだ誰も作っていないことにあるとき気付き,
とても喜んだ,という逸話を何かで読んだ気がする.
この四度堆積和音という視点はそれ以後,
たくさんの音楽家たちによって試みられ,様々に発展してきた.

私自身ここにきて改めて,四度堆積という見方が気になり始めた.
というのも,それ以上音を付け加えると壊れてしまう気がするという意味で完全な和音,
トリスタン和音が四度堆積和音の派生物とも捉えられることに気付いたからだった.
トリスタン和音 - Wikipedia
ついでにこの四度堆積和音の他の派生物も色々弾き試してみると,
Jazzyな和音が次々に現れてくる.おやおや.

そんなことを大学に通勤する前の毎朝数十分,ピアノ練習の中であれこれやっているうちに,
この四度堆積,あるいは一般にn-semitone堆積という視点で
数理音楽を展開するのはどうだろう,と安直に思ったわけだ.
(そんなことは既に大勢の人がやってきたことだけど.)
一度古典的な三度堆積の音楽世界から離れたら,
無理に分数コードなんてこと考えなくても済むんじゃないか,なんてね.

この3月で卒業するゼミ生の卒論の一つTymoczkoによる「和音の幾何学」だった.
多声部の教会音楽が作られるようになって以来,
いかにして心地良く和声をつなげるか,つまりスムーズなvoice leadingをどう見つけるか,
といったことは現実的な問題として必要だった.
Tymoczkoが試みていることは和音を「上手く」空間配置し,
和音間の距離,あるいは位相を考えることで
効率良くスムーズなvoice leadingを探す,という提案だった.
もっともこの和音の幾何学化,古くはオイラーにまで遡るのだけど.
(そしてそこで提案されたTonnetzというアイディアは,
何と高校「数学活用」の教科書にも載っているんだ!)

A Geometry of Music: Harmony and Counterpoint in the Extended Common Practice (Oxford Studies in Music Theory)

A Geometry of Music: Harmony and Counterpoint in the Extended Common Practice (Oxford Studies in Music Theory)

例えば3つの音からなるあらゆる和音(非和声和音も)全てを空間に配置しよう.
1オクターブは12半音あって,オクターブ違いの音は同一とみなすなら,
Z/12Z で音たちを捉えることになる.
したがって3音和音(triad)はこの3組(Z/12Z)3,あるいは(R/12Z)3の点として表される.
するとまたtriadの転回形も全て同一と見做すから,この3組は順に依らない,
つまり (R/12Z)3/S3 の点として捉えられる.

ここでTymoczkoは12半音を3等分するC,E,G#を断面とする座標系をとってtriadを配置した.
例えばtriad CEG#は△CEG#の重心に取る.
triadを構成する3音の第1,2,3音を半音上げるベクトルをa1,a2,a3とする.
例えばCEG#+a1=C#EG#,CEG#+a2=CFG#,CEG#+a3=CEAといった具合だ.
ところがこのベクトルたちを注意深くとっておくと
triadを構成する3音が張る平面上にそのtriadがあるようにできる.
例えばtriad CEAは平面CEA上にある,といった具合に.
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これがたまたま3音だからというわけではなく,一般にn音和音でも(R/12Z)n/Snの上で可能だ,
ということが上記の卒論で示されている.卒論はしかし配置までで実質終わっているが,
この図を見ていると色々と音楽的現象が説明されるようで面白い.

ところで四度堆積はどこいった,ということなんだが,
Tymoczkoは(おそらく)12半音を等分するという意味でCEG#-断面で座標系をとった.
しかしJazzyな響きなどはオクターブに収めて説明できるようなものじゃない.
だからZ/12Zより拡げよう,そうすると断面はもっと自由になる.
トリスタン和音を捉えたい,ならば4音和音を考えよう.
そしてトリスタンは四度堆積からの派生だ,ならば断面を四度4つで始めよう.
つまり,CFB♭E♭-断面からだ.因みにトリスタンはこの第2音を半音上げたものだ.
そしてあらゆる4音和音はそれを構成する4音が張る超平面上にあるように
生成ベクトルを調節できる.

ところで自分が本当に捉えたいのは和音の色彩感.
その入り口となる研究が音楽心理学の観点からCook氏らによって行われている.
例えば和音の緊張度といった概念が挙げられている.
和音を構成する音の隣接間隔が同じであるほど人は緊張感を感じる,
という心理実験に基づいて倍音まで考慮して和音の緊張度計算モデルを提示している.
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↑卒論から.
因みにTymoczkoの断面CEG#は三度堆積和音だから緊張度が高い.
(しかも3度=4半音なので12の約数だから倍音を考慮しても緊張度が下がらない.)
四度堆積CFB♭E♭-断面も同様に緊張度が高い.
そして空間配置はこの高緊張度和音を中心軸にして配置されることになる.
これは何を意味するのだろうか?

あるいはモダリティー.いわゆる和音の明暗のモデルも提案されている.
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↑卒論から.
このモデルに従えば,等間隔和音は中性的ということになる.
(完全四度=5半音は12と互いに素だから,倍音まで考慮すると
四度堆積CFB♭E♭-断面はどっちかに傾いてるかもしれないが.)

そんなこんなで四度堆積,一般にn度堆積和音からの音楽解釈は
数理音楽的に面白いんじゃないかと思い始めた次第.

因みに卒論で使った図はBASICで.ついでに倍音の影響がどのように反映するか
その様子を例えば緊張度についてこんな感じ,と以下に貼っておく.

↓純音のみ
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↓2倍音まで考慮
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↓3倍音まで考慮
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↓5倍音まで考慮
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