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ともあれ今年度も終わった

終わったよ,本年度の卒業論文審査会.
気付いたら,プレゼンのタイトル画面がこんなことになっていた.
あれれ,センスが良くなっている!
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で,肝心の内容なんだが,昨年度の13代が優秀すぎて,ほとんど手がかからなかったのに対し,本年度14代では小人さんがほとんど出突っ張り.
これだけ出動したのはちょっと過去にはない.そして,もうこんなことはしない.
しなくて良いようにゼミ生を動かしていかねばね.

まぁしかし,プレゼンでは教育学部生らしく頑張った.
どうやらプレゼン練習の初期段階ではつべこべ言わず見守る(あるいは敢えて全く見ない)ほうが良いようだ.仲間内であれこれやる中で知恵をつけるらしい.


どういうわけか,一人トイレに行っているスキに撮影→
長年,ゼミに使っていたこのお気に入りの部屋も,改修工事で使えなくなる.1年後は自分の研究室でゼミができるかな(何しろ部屋面積が現在の2倍!)


そうそう,個人的趣味でもある「数理音楽」では,いくらか収穫があった.
やはり議論するとネタがいくつも芽生えてくる.
次年度,これらをまとめるともう一歩突っ込んで「調性音楽の組合せ論的特徴」が抽出できると思われる.

それはそうと,卒業論文のみのことではないのだが,この数年ますます学生たちの文章が拙くなってきているように思われてならない.
ついには自分の研究の総括であるイントロですら辿々しく,あるいは全く書けないという有様.
(といっても,今回は赤入れ添削作業をすっ飛ばしたので,それが教育的にはまずかったと反省している.でも,もうそんな元気が出なかったんだ.)
もう,AO入試とか学校推薦とか妙な入試枠なんか作ってないで,入試は国語一本で良いんじゃないかな.
母国語ができないなら,どんな学問もやれないのだから.
「アクティブラーニング」とか「主体的・対話的で深い学び」とか言う前に,まず「読み書き」きちんとしようよ.
もはや「教科書が読めない」のは,教員自身なのかもしれないよ.

【2019年ビジネス書大賞 大賞】AI vs. 教科書が読めない子どもたち

【2019年ビジネス書大賞 大賞】AI vs. 教科書が読めない子どもたち

  • 作者:新井 紀子
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2018/02/02
  • メディア: 単行本

四度堆積からの誘い(3)

本タイトルエントリーもこれで3つ目となる.
前回は確か Tristan chord が四度堆積和音の半音変形なんだってことを見つけた話だった.
tokidoki.hatenablog.jp
最近 Blackadder chord*1 なるものを某学生が教えてくれた.
これは音楽研究家Joshua Taipale氏によって近年名付けられたコードで,知らぬ間にJ-popに多用されていたものらしい.
www.youtube.com

Tristan はコードの進行力が弱いおかげで独特な浮遊感があってかつ単独で使える独立感のあるコードだと思っている.
これに対し Blackadder は強いベクトルを持ったコードで,然るべきところで使うととても明るい,爽快感のある進行をもたらすが,単独で使うとかなり違和感のあるコードだ.
こうしたかなり性質の違うコードなのだけど,この2つ,実は半音変形で移り合っている.

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例えば上の譜例では,Blackadderが Gaug/Db であり,Tristanは Em on G/Db と,top noteが半音違うだけだ.
けれど,その違いだけで進行の行き先が大きく違ってくる.
ちょっと聴き比べてみてくだされ↓

前半はBlackadder,後半はTristanをそれぞれ挟んで自然に進みそうなコードを続けてみたが,こうしてみるとBlackadderはtop noteの半音進行が強力な牽引力となっているようで,というよりtop noteを半音進行させたらできてしまったコードのように思えなくもない.
けれどそもそもrootは半音下方進行で,なぜこれで成り立つのかよくわからない.
あるいはこのrootの半音下方進行は裏コードの発想から来ているのかとも考えたが,上に乗っかってるコードが裏コードとBlackadderではえらく違う.
でもとにかくBlackadderはこれで成り立ってしまっている!しかも爽快に飛ばしてくれる!!

Blackadderは分数コードとして捉えると上が Aug なので緊張度が高い.
このあたりの仕組みは最初のエントリーで触れた.
tokidoki.hatenablog.jp
同様なことは dim でも言えるのだけど,これらchromatic 12音を等分割するコードは一般に多数の文脈での解釈が可能だ.
dim や Aug はコード同士の乗り換え・乗り継ぎのためのハブのような役割をする.
更にその Aug のルートに対してこれまた12音を等分割する IV# の音を添える.
だから自ずと Blackadderは多義的解釈ができてしまう,したがって代理和音として様々に使われうるのだろうと想像はするものの,どれだけの可能性があるのかまだ検討していない.

何にしても,四度堆積を意識しながらコードを掴むと,以前の自分にはできなかった微妙なニュアンスの音作りが出来るようになって楽しい.
そんなことを感じながら毎朝ピアノでちょっとずつコードを付けてみたKIMIGAYO2019.
そもそもはDorian modeのコード進行ってどうやるん?というところから始まって,君が代は西洋音楽の枠組みでみるとD-Dorianかなぁ,じゃぁちょっとコードつけてみようか,となった結果である.

隠蔽,捏造,虚偽,忖度,そして分断ーもはや目も当てられないほどに劣化した政治だとか,ただでさえ同調圧力の強い民族性の中,失敗したら落ちていく他ない不安と隣り合わせに生きる国民が抱える大きな閉塞感に覆われた,この国らしいアレンジにしてみた(というあと付け解釈).

*1:某Youtuberによって「イキスギコード」なるいかがわしいネーミングが流行ってしまったのだが.

AIは電気羊の夢を見るか

今週,ゼミ生6名の卒論の提出がとりあえず完結した(とりあえず).
決まったタイトル一覧.

  • 「ボーッと跳んでんじゃねーよ!ー跳躍軌道と踏切動作の力学モデルー」
  • 「フェロモンは裏切らないー蟻コロニーモデルを用いた巡回セールスマン問題の解法ー」
  • 「オオハシくんには騙されないー簡易ダウトゲームの必勝戦略ー」
  • 「AIは電気羊の夢を見るか―誤差逆伝搬学習法とニューラルネットワーク―」
  • 「数のダークマター,超越数ー無理数度,リュービル数,そしてリンデマンー」
  • 「勝利の女神はあなたにハニカム?ーHEXの必勝戦略と不動点定理ー」

で,AIをネタにした卒論がこのエントリーのタイトル.
ピンとくる人はピンとくる,あの名作「ブレードランナー」の原作タイトルのパロディーだ.
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

この映画が公開された当時の80年台,確かに第2次AIブームがあった.
当然自分も惹かれた分野だったのだけど,蓋を開けてみれば,その当時のAIはひたすら人間が場合分けを尽くしてそれをプログラムするといった,子供ながらに実に不毛だと思われる作業の繰り返しだった.
主にLISPで書かれたそれらプログラムは,「未来はそっちじゃない」と,そう確信できてしまうものばかりだった.

かつて子供の私は,人工知能というもう一つの知性の誕生に有る種の希望を見出していた.
人類とは違う知性,感情から完全に独立した知性というモノへの憧憬があった.
あの当時の研究ノートには確かに記されている.
「人工知能,いや人工知性が実現した暁には,君たちからみて人類はどう見えるのか尋ねてみたい.」と.

今や,人工知能のシミュレーションを個人がフリーで行える時代だ.
Sonyが提供するNeural Network Consoleはそのいい例だ.
dl.sony.com
今回の卒論も,この環境をフルに活用したものだ.

ところで,このエントリーを書こうと思ったのは,Googleが提供する,というか,実は参加することで人工知能への学習データを提供するという企てを知ったからだった.
quickdraw.withgoogle.com
これ,面白いよ.
もう,そうとう学習が進んでいるらしく,かなり怪しい絵でも分かってくれるようになっている.
マウスで描くとかなりメチャクチャなんだけど,分かってくれる.
で,「川」が出題されたのだけど,これが意外と難しくて判定してもらえなかった.
こうして,世界中の人がゲームとして参加しているうちに,GoogleAIは賢くなっていくって塩梅だ.
うまいよな,人間をゲームに誘って学習データを集めるっていう設計が.

ようやく卒論審査会 in 2018

今年度もようやくここまで来ました.
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タイトル,一人だけまだ決まってないとき.


緊張の本番開始.
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結構うすい環(わ)ぁ,土星の環
―重力ポテンシャルを利用した惑星環形成のモデル―

土星などの惑星環が薄く形成されてしまう理由を簡単な力学だけで説明を試みたよ.


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タネト――ク
―カードマジックを離散力学系で読み解く―

カードシャッフル・トリックにまつわる数理的現象を離散力学系として分析した.その場でマジックをする初めての試み.


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matrix( 母 ) をたずねて三次元
―高次元ピタゴラス数のネットワーク―

ピタゴラス数を産む有名な行列の話を3次元にも拡張できないか試みた話.今回は3次元にお母さんは見つからなかった.果たして3次元以上にお母さんはいるのだろうか?


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効率ファースト
―待ち行列を用いたより効率的なレジ待ち並びの提案―

待ち行列理論をレジ待ちに適用した.あんなに苦労した不等式評価がさらっと登場しただけなんだけど,発表するとやはりそうなるのかな.


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ゼミ友学園
―研究室マッチング問題,忖度を添えて―

色んな意味でブラックジョークを交えて,1対多マッチング理論とその応用.Scratchによるアルゴリズムの提示を今回初めてやってみた.


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ゼミの中心で「あ~」と叫ぶ
―線形予測を用いた sin 波の合成―

Excel VBAも使わず,ほとんど手作業で線形予測による母音の合成を行うという力作.いやホント,合成が間に合ってよかったよ.ちゃんと「あいうえお」って聞こえたし,ね.


うん,何とかなった,今年も.皆の者,乙.



他のゼミの発表を見て改めて考えさせられる点,多々あり.
徐々にうちのゼミも下学年に「分かった気にさせる」方向を取ってきたのだが,
果たしてそれをどこまですべきなのか,ということだった.
つまりこれら発表が「誰」あるいは「何」に対して行われるべきか,ということだ.
他ならぬこれは「卒業論文審査会」であって,ゼミの宣伝会ではない.
審査員向けの研究発表が本題であることに変わりはなく,
その点に真摯に向き合っているかどうか,は守らねばならない点だ.

しかし一方で下の学年の勉学への意欲向上につなげる,という目的もこの審査会にはある.
(と思ってたけど,そう?)
分かりやすいところ,受けの良いところだけを掻い摘んで発表するスタイルも,
真の研究内容の誤解を招かない範囲で行われても可,とも思える.
分からない話が延々と続くのであれば,彼らの意識も持たない.
ちょいちょい下学年向けの小ネタを挟みながらのトークも必要悪なのかもしれない.
さて,ではどうあるべきだろうか?

下学年には悪いのだけど,表面だけ「分かったつもり」になってもらうこと目指しながらも,
(それはきっと十分な間をかけて研究動機を語ることなのだろう)
分かっている人が見れば研究内容の本質がちゃんと語られている,
そんなプレゼンが落としどころなんだろうかね,という気になってきた.
この辺りのバランスが難しいし,教員目線だけでは分からないところだったりする.
ああ,でもそうだな,自分だったらこのネタ,どうプレゼンするかな,って思えば行ける気がする.

どちらにしてもそろそろBeamerを超えた,視覚に訴えるプレゼン道具が必要に思えた.
(え,なに,結局keynoteが羨ましい,という話かい?)


って,何とか終わって,う・ち・あ・げ!
でも,2年の世話人だったので開始から1時間遅れで参加.
そうそう,3年とそして去年卒業の11代目もゲスト参加.
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で,口上と共に飲み会の場でいただいたのが,
若かりし頃(1年半前)の彼らの写真の入ったマグカップ,
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から~の,ど~ん.

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ま,散々,九平次九平次ってゆうてたからね,ゼミ中に.
あざっす!

九平次とブルックナーと,そして卒論添削

今年の暮れも,例年の如くゼミ生の卒論添削で年を越す.
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こうして手直しをする中,結構面白い発見をする.
例えばピタゴラス数を生成する行列の話は,
ピタゴラス数を2パラメータで表示するとき,そのパラメータが動く空間と
原始ピタゴラス数全体のなす空間の関係は,
パラメータ(2,1)を始対象とし,射を(1,1)(2,0)とする圏と
原始ピタゴラス数を含む圏との関手\Phi_2を観察してるに他ならないことだとか,
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カードマジックで有名なGergonneトリックは一度論文にしたけれど,
Generalized Gergonne's Trick and its Continuous Approximation
いま一度卒論ネタにしてまとめ直すと綺麗に書き直せることとか.
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まぁ,何にしても年末,
すき焼きとネットでわざわざ注文して手に入れた九平次(雄町!)の取り合わせを楽しんでから,
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昨年同様,遥か遠く高校時代に衝撃を受けた
マタチッチ指揮のN響によるブルックナー8番を聴きながら,卒論の添削で年を越すのだ.

ブルックナー:交響曲第8番

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  • アーティスト: ロヴロ・フォン・マタチッチ,NHK交響楽団
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悪くは無い.むしろ誰の為でもなくある種の芸術活動として没頭できるこの時間は
おそらく誰にも理解されないであろう,私だけの幸福のひと時である.