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横を立てれば縦立たず

純正律は縦の調和,つまり和声(特に三度積み重ねの)を重視してできた.
だから転調をしないのならハーモニーをずっと維持できる.
って仕組みのつもりなのだが,実は転調せずとも破綻が起こる.
実際計算するとおかしなことになっているのに気付く.
例えば,(ちょっと人工的だけど)ごくごく普通の以下のような進行を考えてみよう.

純正律は

・1オクターブ上=周波数2倍(×P8と書こう)
・完全5度上=周波数3/2倍(×P5
・長3度上=周波数5/4倍(×M3

で音階を生成した,と考えられる.だから他の音程差は

・完全4度上=1オクターブ上の完全5度下=×P8/P5=周波数4/3倍(×P4
・短3度上=完全5度上の長3度下=×P5/M3=周波数6/5倍(×m3

と計算される.
ところで,同じ音はずっと同じ音で鳴っているべきだろう.例えば上記の譜例を合唱しているとしよう.
分かりやすいように,同じ音をタイでつないでみる.

さて,そうすると.縦糸と横糸を維持し続けると,音程が下がってしまうのが分かる.

・初めの和音(=(E1, G1, C1)と書こう)から次の和音(F2, A2, C2)ではC1を維持するので
  (F2, A2, C2)=(C1/P5, C1/m3, C1)
・(F2, A2, C2)から第3和音(F3, A3, D3)ではF2, A2を維持するので,例えば
  (F3, A3, D3)=(F2, A2, A2×P4)
・(F3, A3, D3)から第4和音(G4, B4, D4)ではD3を維持するので,
  (G4, B4, D4)=(D3/P5, B3/m3, D3)
・(G4, B4, D4)から最後の和音(E5, G5, C5)ではG4を維持するので,
  (E5, G5, C5)=(G4/m3, G4, G4×P4)

では最後の C5 を順次さかのぼって計算してみよう.

C5=G4×P4=D3/P5×P4=A2×P4/P5×P4=C1/m3×P4/P5×P4
=C1/(P5/M3)×(P8/P5)×(1/P5)×(P8/P5)
=C1×M3×(P8)2/(P5)4=C1×80/81

というわけで,初めのCと最後のCでは周波数にして80/81下がってしまう.あれあれ.
短い曲なら純正律のまま演奏しても音程が下がっていくことに気付かないかもしれない.
だが,例えば平均律楽器の介在しない合唱曲のような場合,
長く唱っていると次第に音程が下がっていくんじゃないだろうか.
とすると,一体人間はどこで帳尻合わせして元の音程に戻しているのだろう?
というか,そこが人間のいい加減さで,上手く戻してるのだろうか.


おっと,それから.数理的な興味としては,この「下がっていく」現象は
どういうパターン(和声進行)で起こるか,っていうことだ.
そのパターンは音楽の文脈に由来するものだろうか.
例えば音程が上がってしまう進行は,音楽として成り立ちにくい,とか.
この辺も卒論ネタにならないかなぁ...