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四度堆積からの誘い(3)

本タイトルエントリーもこれで3つ目となる.
前回は確か Tristan chord が四度堆積和音の半音変形なんだってことを見つけた話だった.
tokidoki.hatenablog.jp
最近 Blackadder chord*1 なるものを某学生が教えてくれた.
これは音楽研究家Joshua Taipale氏によって近年名付けられたコードで,知らぬ間にJ-popに多用されていたものらしい.
www.youtube.com

Tristan はコードの進行力が弱いおかげで独特な浮遊感があってかつ単独で使える独立感のあるコードだと思っている.
これに対し Blackadder は強いベクトルを持ったコードで,然るべきところで使うととても明るい,爽快感のある進行をもたらすが,単独で使うとかなり違和感のあるコードだ.
こうしたかなり性質の違うコードなのだけど,この2つ,実は半音変形で移り合っている.

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例えば上の譜例では,Blackadderが Gaug/Db であり,Tristanは Em on G/Db と,top noteが半音違うだけだ.
けれど,その違いだけで進行の行き先が大きく違ってくる.
ちょっと聴き比べてみてくだされ↓

前半はBlackadder,後半はTristanをそれぞれ挟んで自然に進みそうなコードを続けてみたが,こうしてみるとBlackadderはtop noteの半音進行が強力な牽引力となっているようで,というよりtop noteを半音進行させたらできてしまったコードのように思えなくもない.
けれどそもそもrootは半音下方進行で,なぜこれで成り立つのかよくわからない.
あるいはこのrootの半音下方進行は裏コードの発想から来ているのかとも考えたが,上に乗っかってるコードが裏コードとBlackadderではえらく違う.
でもとにかくBlackadderはこれで成り立ってしまっている!しかも爽快に飛ばしてくれる!!

Blackadderは分数コードとして捉えると上が Aug なので緊張度が高い.
このあたりの仕組みは最初のエントリーで触れた.
tokidoki.hatenablog.jp
同様なことは dim でも言えるのだけど,これらchromatic 12音を等分割するコードは一般に多数の文脈での解釈が可能だ.
dim や Aug はコード同士の乗り換え・乗り継ぎのためのハブのような役割をする.
更にその Aug のルートに対してこれまた12音を等分割する IV# の音を添える.
だから自ずと Blackadderは多義的解釈ができてしまう,したがって代理和音として様々に使われうるのだろうと想像はするものの,どれだけの可能性があるのかまだ検討していない.

何にしても,四度堆積を意識しながらコードを掴むと,以前の自分にはできなかった微妙なニュアンスの音作りが出来るようになって楽しい.
そんなことを感じながら毎朝ピアノでちょっとずつコードを付けてみたKIMIGAYO2019.
そもそもはDorian modeのコード進行ってどうやるん?というところから始まって,君が代は西洋音楽の枠組みでみるとD-Dorianかなぁ,じゃぁちょっとコードつけてみようか,となった結果である.

隠蔽,捏造,虚偽,忖度,そして分断ーもはや目も当てられないほどに劣化した政治だとか,ただでさえ同調圧力の強い民族性の中,失敗したら落ちていく他ない不安と隣り合わせに生きる国民が抱える大きな閉塞感に覆われた,この国らしいアレンジにしてみた(というあと付け解釈).

*1:某Youtuberによって「イキスギコード」なるいかがわしいネーミングが流行ってしまったのだが.