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開口端でも気柱共鳴が起こるのはなぜ?

今年の卒論ネタの一つから.
金管などいわゆる開口端の楽器はマウスピースやリードからの振動を共鳴器で拡大させて特定の周波数の音を出すように作られているわけだが,それは反射波との共鳴によってなされるとされている.しかし,普通に考えると何の壁もない開口端で,どうして反射波が発生するのだろう,という素朴な疑問が起こるものである.確かにネットで検索すると,固定端反射するとか,壁がないのだから自由端反射だとか諸説流布されている.
で,なんだか分からなくなってきたので,仕方ないから実際に波動方程式からシミュレーションしてみることにした.
それが↓.processingで久しぶりに作ってみた.


上スクリーンでは真ん中に開口端の管を置き,開始直後に管左端でパルスを発生させ,それが波動方程式に従ってどう発展していくのかをシミュレーションしている.ただし,圧力波として表現しているので管の壁では自由端反射させた(作用・反作用の法則によって).残念ながら今のところ,スクリーンが有限なために起こる境界条件が上手く設定できていなくて,本当は無いはずの反射が薄っすらとスクリーン端でも起こってしまっている.

上スクリーンを横切っている水色線はマウスの Y座標に伴って上下に移動し,下のスクリーンにその水色線で切断した波面のグラフが描かれるようにした.これで,管内での圧力波の変化がよく分かる.
そして,その結果として見えるのは,確かに開口端であってもそこで圧力波が反射していること,しかも固定端反射のように振る舞っていることが見える.


f:id:okiraku894:20201222171319p:plain

パルスの山はチューブ内を順調に進むが,開口端へ達っした途端,急激に山が谷へと変化するのが見える.固定端反射のようだ.
因みに,マウス右ドラッグでその場にパルスを加えて,さらなる波を起こすようにも作ってみた.

さて,この様子をじっと見ていると開口端で何が起こっているのか色々分かってくる.
まず,開口端へ達するとチューブの壁が消えて一気に空間が広がるので,波はチューブ内の平面波から球面波へと変化する.そのとき,より広い面積の「まだ圧力変化していない」媒質に触れることになる.チューブ内から出てきた平面波からすると,突然圧力変化を起こし辛くなってくる,ということだ.このことが壁のような働きをするのだろうと思われる.

媒質がいたるところバネのようなものだったと考えれば,チューブ内一定のバネ定数が開口端で急に大きなバネ定数に変化したということだろうか.チューブ内の柔らかいバネからチューブ外の硬いバネに波を伝えようとしているような感じだ.

そう思ってさらに検索を続けると,インピーダンスなる概念が出てきて電気回路に代替して説明していたりする.波の伝わりにくさをインピーダンスとして表現するというわけだ.

ところで元になる波動方程式

 \displaystyle
\frac{\partial^2}{\partial t^2}\phi(x,y,t)=c^2\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}\right)\phi(x,y,t)

は,シミュレーションではもちろん差分化して解くのだけど,それは
 \displaystyle
\text{位置 $(x,y)$,時刻 $t$ での値 $\phi(x,y,t)\to$ セル $(i,j)$,時刻 $n$ での値 $p_{i,j}^n$}
と対応させ,
 \displaystyle
p_{i,j}^{n+1}-2p_{i,j}^n+p_{i,j}^{n-1}=c'^2\left(p_{i+1,j}^n+p_{i-1,j}^n+p_{i,j+1}^n+p_{i,j-1}^n-4p_{i,j}^n\right)

すなわち,漸化式
 \displaystyle
p_{i,j}^{n+1}=c'^2\left(p_{i+1,j}^n+p_{i-1,j}^n+p_{i,j+1}^n+p_{i,j-1}^n\right)+(2-4c'^2)p_{i,j}^n-p_{i,j}^{n-1}

によって計算していくことになる.ただし,今回のシミュレーションでは,あまり根拠なく c'^2=1/4とした.