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残念な国(2)―それでも子供は育つ

時期が時期だから「安保うんぬん」を話題にしたいところだが,ちょっと変化球.
国は残念でも,それに呑み込まれず子どもたちを育てている人たちがいるって視点で.

数年前から「すっげーなこいつら」って思ってる,小中学生の自由研究コンクール.www.shizecon.net
どうだろうこの自由な視点と研究,実際学生の卒論ネタにもできると思うよ.

さて,統計とコンピュータも終了を迎えつつあって理解度調査をしているのだが,
ここにきてなお「度数分布」「ヒストグラム」「分散」を「知らない」と回答してくる学生がいる.
え...えぇっと,ネタだよね,それ...

と,現実から目を逸らしながら小中学生の自由研究を眺める.
ほらほら,中学生ですらカイ二乗検定使ってるよ↓
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お父さんの薬がみつからないっ!
秋田県由利本荘市立本荘東中学校

結局のところ,学ぶ当人が必要性を感じていなければ
どれだけ趣向を凝らしても馬耳東風ということなんだ.
だから特に今期,学習環境デザインを意識して試みたのだけど,
ちょっと間に合わなかったのが残念.
再び次年度,より多くの学生が意義を感じられるような,
内発的動機をもてるような仕組みを考えなくては,と思う次第.

ところでこの「自然科学観察コンクール」(シゼコン)に刈谷周辺の小中学校が
毎年多数入選しているのに気づく.2014年度だけでも↓のように.

金属にできる「虹」の研究
 愛知県刈谷市立住吉小学校6年
バスケットボールのシュートの研究~どうしてネットはひっくり返るのか~
 愛知県刈谷市立富士松中学校3年
忍者の科学
 愛知県刈谷市立雁が音中学校
炊きたてご飯の「ぺらぺら膜」の秘密
 愛知県刈谷市立朝日中学校3年 科学部
ヨモギ餅の研究 〜なぜ、雑草であるヨモギを餅の中に入れるのか?〜
 愛知県刈谷市立刈谷南中学校

これはもしや,大学がずっと続けている「訪問科学実験」の効果なのかな.
訪問科学実験|愛知教育大学

これ,算数・数学でもできないものかな.
ちょっとまえの数学同人Sigmaなら,あるいはできたかもしれないが,
現在は活動もままならなくなってきたからなぁ...

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

芸は身を滅ぼす?(3)

石取りゲームシリーズ@教科学,第3弾.
石取りを再び一山にする代わりに,
「直前に相手が取った石の数の二倍までOK」ルールにすると,
途端に数論的に面白いことが起こり始めることを知った.
[Flash] 2011年 11月号 必勝法を探せ!(その4)
そして教材にもなっていた.
フィボナッチ数を用いた教材開発とその実践

ゲームの分析はニムと同じ発想だけど,
土台となる数系がフィボナッチ数による不等進数なんだ.
つまり,あらゆる自然数は番号が隣り合わないフィボナッチ数の和で
一意的に表されるという事実だ.
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実はじっと一次元回転力学系を眺めていると自然にZeckendorfの定理に,
あるいはよりもっと一般化すれば連分数展開から自然に導かれる,
Ostrowski numerationにいたるのだけど,
そんな現象が石取りゲームに現れるってところが面白い.

で,もちろんScratchで作った.そして学生らに対戦してもらった.
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埋め込んでおくね↓
初めはフィボナッチ進数表示されないけど,
左上青い四角をクリックすると現在の石の個数がフィボナッチ進数表示される.

振り返ると数論的現象に関わる自分のアイディアの多くは
回転力学系の観察から出てきている.
(あの12音クロマティックスケール内のダイアトニック7音の配置の理由も,
 この回転力学系の観察から得られるんだ!)
DSpace at 愛知教育大学: A Dynamical Characterization of Myhill's Property

一方でこの不等進数のアイディアは何らかの力学系を「繰り込み」分解する
ひとつの指針を与えるようにも思える.
思えるよなぁ~と気付いてから数年が経つのだけど,未だ形にならず.

シリーズにするつもりじゃなかったんだけど,(3)とな.tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp

芸は身を滅ぼす?(2)

また作っちゃったから遊んでくれっていう記事.
前回の「芸は身を滅ぼす?」に続き,ついついはまり込んでしまった.tokidoki.hatenablog.jp

れいの「教科学」ではこのところ数回かけて,いわゆる数理パズル・ゲームを通して
その裏にある歴とした数理に触れてもらおうという企画で進めている.
もちろん流れとして当然出てくる複数山石取りゲーム,いわゆるニムゲームをScratchで作った.
これ何とか間に合わそうと直前の朝3時半まで作っていたもの.
f:id:okiraku894:20150614163535p:plain
ここに埋め込んでおくね.

実際にその場で試行錯誤で対戦できるとあって,何人かが講義中にあれこれ試してくれた.
まぁ,作った甲斐があるというもの.

おっと,ついでにこれまでのScratch作品集はここに.scratch.mit.edu

このニムゲーム,数学者Boutonによる二進数のXOR演算を使った見事な解法があるのだが,
普通はこの見かけ上の石取りゲームとギャップがあると感じるだろう.
そこで何か中間的なゲームは考えられないかと模索して次のゲームを考えた.

【スイッチゲーム】
数ケタの二進数3つを用意する.この数字を交互に次のルールで書き直していく.
【ルール1】3つの二進数から一つ選ぶ.その数に含まれる幾つかの 1 を 0 に書き換えられる.
【ルール2】1 を 0 に書き換えたら,それより右にある桁は 1→0 や 0→1 に自由に書き換えて良い.
【勝敗】書き換えられなくなったほうが負け

このゲームは例えば次のように進行する.
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で,ここに出てくるニム和は以下の如く定めておくわけだ.
f:id:okiraku894:20150614170647p:plain

これらをじっと見て,必勝法が見えてくるだろうか?
少なくとも実際に自分と対戦してみた学生は何度かやってみるうちに悟ったようで
必勝法を見つけていった.

さて今度は「2倍取りゲーム」でFibonacci列の華麗な世界へ突入しようと思う.
が,教科学もそろそろ息切れしてきた.ちょっと休みたい...


ところでこういった数理ゲーム,ゲーム理論でも有名なあのJohn Nashが
とても素敵なアイディアを沢山残していってくれている.
もっともNashは決してゲーム理論をライフワークにしていたわけではなく,
リーマン多様体の研究者であり,一方でリーマン予想にも深く足を踏み入れていった人だ.
でもなぁ,博士課程とその数年間のゲーム理論研究でノーベル経済学賞獲っちゃうわけで,
天才がやることってそういうことなんだよなぁ...

A Beautiful Mind: Genius and Schizophrenia in the Life of John Nash (English Edition)

A Beautiful Mind: Genius and Schizophrenia in the Life of John Nash (English Edition)

そしてつい先日,何ということでしょう,交通事故で亡くなってしまわれたのでした.matome.naver.jp

それでも正しいと思うからやり続けるだけなのさ

何がって,具体的に確率的現象を体験させるために
講義中にあれこれ実験してもらう作業のことさ.

今年は10年ぶりにがらりとやり方を変えた統計とコンピュータ,
記述統計が片付いてようやく推測統計学だ.
例年,大数の法則と中心極限定理を雰囲気だけでもつかんでもらおうと,
あれこれシミュレーションをやって見せるのだが,
全くと言っていいほど反応の無い,この講義中に最も無力感を味わう場面でもある.

さて,今年も性懲りもなく挑戦してみた.
ただ今回は大きく実験を取り入れてきたので,
大数の法則が容易に体験できそうな実験をと探し歩いてたら,
啓林館のページに中学生向けの授業実践に確率を扱ったものがあり,
それを利用させてもらった.www.shinko-keirin.co.jp
コインとペットボトルのキャップとピンをガラガラと振って,
それぞれが下の写真のようになる確率を予想して大きい順に並べよ,という題材だ.
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この実験の最も良いところは,結果がどうなるかちょっと分からない,
人によって意見が分かれるという点だ.


さて2人一組になって下記の容器を50回ずつ振ってもらう.
一人は記録係となりEXCELに裏表をチェックしていく.
その後,10回毎のデータをGoogle formにて全員から採集,
一方,彼らのEXCELシートには表の比率が時系列と共にグラフ化されて
次第にそれぞれがある確率に近づいていく様子が描かれるという仕組みだ.
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初めての試みでもあり,時間配分がどうなるのかさっぱりで始めたのだが,
無事実験が終わりデータも集まり,
そしてチェビシェフ不等式→大数の弱法則の証明まで90分の時間内に完了した.
10回毎に区切ったデータを送ってもらったのは他でもない,
その先にある中心極限定理をも現象として見せられるかもしれない,と期待したからだった.
もっとも一人50回,これがおよそ100人,わずか500個の標本平均値が集まるだけだから,
昨年度まで行っていた「ナンチャッテ世論調査」のように綺麗には正規分布は現れない.
(実際集めてみたが,いまいちだった...)

何にしてももらったデータをもとに相対度数を時系列表示すると以下のようになった.
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これによれば「コイン」>「ピン」>「キャップ」となる.
だが問題はここからだ.本当にそう断言して良いのか,ということだ.
50回程度では確率が逆転しそうなところもあり怪しいわけだが,
この先の雰囲気からすれば,もうひっくりかえることは「無さそう」だ.
でも「無さそう」であって,「無い」という保証はない.
そして,このあやふやさに「信頼度」という概念を従えて
ある程度の白黒を付けるのが中心極限定理というわけだ.
さっきのグラフに「平均±2σ」のラインを書き加えてみよう.
f:id:okiraku894:20150607135855p:plain
中心極限定理が保証するのは標本平均が「平均±2σ」程度に収まるのが95%ということ,
だから各色の点線を超えて確率が逆転してしまうのは5%以下だ,と言っている.
上記グラフでは1300個の標本平均だと±3σでも余裕で確率が分離できている.
±3σは信頼度99%に相当する.
だから,この実験が間違った結論を導いている確率は1%以下だということだ.

しかし,先ほども書いたように集まるサンプル数が少ないため,
正規分布が見えるほどにならない.
というわけで,この先は連続な確率変数でのシミュレーションとして
過去数年,講義中に提示し続けてきたn本ダーツの重心の分布を見てもらうことにする.
といってもEXCELの計算量の関係から16本程度までしか実験していないのだが,
それでも次第に重心分布がボードの中心に収束していくとともに,
そのヒストグラムが一様分布から正規分布へと次第に形を変えていく様子が見えるはずだ.
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と,こんな具合に今年もこの概念を何とか分かってもらうべく,
色々と道具立てして準備してみているのだが,
真にもって残念なのは,こういった実験中,ひたすら寝ている学生がいること.
もちろんここは大学,学びたくない者を叩き起こすなどという
園児相手のような低レベルなことをするわけがない.
そんな彼らに言いたいのは,いつも言っていること.
(とはいっても,この頃は当ブログを見ている現役学生もごく少数なわけだが)
自分の学びすら大切にできない者が
他者を学びに導けるわけがない.

まぁいい.
それでも自分の活動は少なくともその目指すところは間違っていないと思うから,
この先も淡々と続けるだけだ.

おっと,忘れずいつものも貼っておこう.

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

基数システムで遊び倒す

ネイピアの骨ってのは古来知られた計算盤として
しばしば教育現場でも取り扱われるネタだろう.
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でも,Genaille-Lucasの計算盤は日本ではあまり有名ではないようだ.
自分も某講義の下準備のため調べていくうちに見つけた.
Genaille–Lucas rulers - Wikipedia, the free encyclopedia
で,やっぱり作ってしまった,Scratchで.
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↓複数桁自然数×一桁のシミュレーションをやってくれる.

おまけに,Genaille-Lucasには割り算バージョンもあるのだ.

さて,毎度こちらがあれこれネタを用意して見せてきた某教科学.
そろそろテレビのように見てる学生らにもパフォーマンスを出してもらいたい.
ということでこのGenaille-Lucas計算盤を彼らに設計してもらうことにした.

初めにネイピアの骨で計算棒というアイディアに触れてもらって
それを踏まえて一部のみ分かるようにしたGenaille-Lucas計算棒一覧を渡し,
これを完成してもらう作業を課した.
もちろん,使い方そのものも自分たちで考えてもらうことから始めた.
これまで散々筆算で掛け算をやってきただろうし,
おまけに直前にネイピアの骨で繰り上がりの仕組みを再確認したから,
さすがに皆仕組みまで自ら発見するだろうと思いきや,それがなかなか.
最後までこの仕組みを納得できないで
見た目の法則だけで完成させたものもちらほら.

学生らがいかに形式的にしか物事を見ないで過ごしているのか
それを改めて思い知った場面だった.