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それでも正しいと思うからやり続けるだけなのさ

何がって,具体的に確率的現象を体験させるために
講義中にあれこれ実験してもらう作業のことさ.

今年は10年ぶりにがらりとやり方を変えた統計とコンピュータ,
記述統計が片付いてようやく推測統計学だ.
例年,大数の法則と中心極限定理を雰囲気だけでもつかんでもらおうと,
あれこれシミュレーションをやって見せるのだが,
全くと言っていいほど反応の無い,この講義中に最も無力感を味わう場面でもある.

さて,今年も性懲りもなく挑戦してみた.
ただ今回は大きく実験を取り入れてきたので,
大数の法則が容易に体験できそうな実験をと探し歩いてたら,
啓林館のページに中学生向けの授業実践に確率を扱ったものがあり,
それを利用させてもらった.www.shinko-keirin.co.jp
コインとペットボトルのキャップとピンをガラガラと振って,
それぞれが下の写真のようになる確率を予想して大きい順に並べよ,という題材だ.
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この実験の最も良いところは,結果がどうなるかちょっと分からない,
人によって意見が分かれるという点だ.


さて2人一組になって下記の容器を50回ずつ振ってもらう.
一人は記録係となりEXCELに裏表をチェックしていく.
その後,10回毎のデータをGoogle formにて全員から採集,
一方,彼らのEXCELシートには表の比率が時系列と共にグラフ化されて
次第にそれぞれがある確率に近づいていく様子が描かれるという仕組みだ.
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初めての試みでもあり,時間配分がどうなるのかさっぱりで始めたのだが,
無事実験が終わりデータも集まり,
そしてチェビシェフ不等式→大数の弱法則の証明まで90分の時間内に完了した.
10回毎に区切ったデータを送ってもらったのは他でもない,
その先にある中心極限定理をも現象として見せられるかもしれない,と期待したからだった.
もっとも一人50回,これがおよそ100人,わずか500個の標本平均値が集まるだけだから,
昨年度まで行っていた「ナンチャッテ世論調査」のように綺麗には正規分布は現れない.
(実際集めてみたが,いまいちだった...)

何にしてももらったデータをもとに相対度数を時系列表示すると以下のようになった.
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これによれば「コイン」>「ピン」>「キャップ」となる.
だが問題はここからだ.本当にそう断言して良いのか,ということだ.
50回程度では確率が逆転しそうなところもあり怪しいわけだが,
この先の雰囲気からすれば,もうひっくりかえることは「無さそう」だ.
でも「無さそう」であって,「無い」という保証はない.
そして,このあやふやさに「信頼度」という概念を従えて
ある程度の白黒を付けるのが中心極限定理というわけだ.
さっきのグラフに「平均±2σ」のラインを書き加えてみよう.
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中心極限定理が保証するのは標本平均が「平均±2σ」程度に収まるのが95%ということ,
だから各色の点線を超えて確率が逆転してしまうのは5%以下だ,と言っている.
上記グラフでは1300個の標本平均だと±3σでも余裕で確率が分離できている.
±3σは信頼度99%に相当する.
だから,この実験が間違った結論を導いている確率は1%以下だということだ.

しかし,先ほども書いたように集まるサンプル数が少ないため,
正規分布が見えるほどにならない.
というわけで,この先は連続な確率変数でのシミュレーションとして
過去数年,講義中に提示し続けてきたn本ダーツの重心の分布を見てもらうことにする.
といってもEXCELの計算量の関係から16本程度までしか実験していないのだが,
それでも次第に重心分布がボードの中心に収束していくとともに,
そのヒストグラムが一様分布から正規分布へと次第に形を変えていく様子が見えるはずだ.
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と,こんな具合に今年もこの概念を何とか分かってもらうべく,
色々と道具立てして準備してみているのだが,
真にもって残念なのは,こういった実験中,ひたすら寝ている学生がいること.
もちろんここは大学,学びたくない者を叩き起こすなどという
園児相手のような低レベルなことをするわけがない.
そんな彼らに言いたいのは,いつも言っていること.
(とはいっても,この頃は当ブログを見ている現役学生もごく少数なわけだが)
自分の学びすら大切にできない者が
他者を学びに導けるわけがない.

まぁいい.
それでも自分の活動は少なくともその目指すところは間違っていないと思うから,
この先も淡々と続けるだけだ.

おっと,忘れずいつものも貼っておこう.

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

沈み逝く世代,それとも新世界への準備?

今年はSigmaが日曜企画だったので日曜にちらりと現れた.
今年も数理パズルを交えた企画ものだ.
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はじめにトレジャーハンター養成所があり,ゲーム性を取り入れたあみだくじで訓練.
↓それにしてもいい味出してるぜ,Mくん.
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その後洞窟に入ってからの最初のお題.
9つの錘からひとつだけ軽い錘を天秤2回で見つけよ.
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それをクリアーしたら今度は数式で書かれた暗号を解く.
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そして最後に,チョコレートゲーム.
あ,このチョコレートは以前オープンキャンパスで使ったやつね.
その時のものとはルールが違うのだけど.うん,今度,教科学でも使おっと.
これってニムなのかなぁ...
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で,無事クリアーしたらお宝が.
先程のM君が連休をほぼ潰して作った折り紙作品らしい↓
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そうそう,その数日前,新歓でピザパをやったよ.
全員ってわけじゃないけど,こうしてみると随分な人数になったね↓
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それにしても,年々静かになっていく当大学の学祭.
赴任した当初の様子から比べると,
随分出店数も減っている感じだし,お客さんも減った印象だ.
年々「腕白な」学生が減っていると前々から感じている.
特に名大が後期入試を止めてから学生の入学者層が変わった.
何より顕著なのが,ほぼ月1ぐらいの頻度で自分の研究室で行われていた,
ピザパをはじめとする様々なイベントがこの頃さっぱりになったことだ.
まぁ,それを「顕著」というのかはさておき,
しかし学生の元気さとこのイベントの頻度は明らかに比例している.
そもそも学生が業後の大学に残っていることが珍しくなった.

聞くところによれば,学生間の人間関係が希薄化・矮小化・淡泊化してきたことは,
当大学だけでなく全国的な雰囲気のようだ.
考えてみれば平成生まれは元気だった日本を知らない世代,
現在のような「窮屈な」日本の雰囲気が彼らには普通なんだろう.
こうしてこの国は沈み逝くのだろうか.
それとも今はちょっとした休憩時間であって,
やがて新たな智慧が新しい世界を拓くのだろうか.

どちらにしても,育て続けなければ明日は無い.

基数システムで遊び倒す

ネイピアの骨ってのは古来知られた計算盤として
しばしば教育現場でも取り扱われるネタだろう.
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でも,Genaille-Lucasの計算盤は日本ではあまり有名ではないようだ.
自分も某講義の下準備のため調べていくうちに見つけた.
Genaille–Lucas rulers - Wikipedia, the free encyclopedia
で,やっぱり作ってしまった,Scratchで.
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↓複数桁自然数×一桁のシミュレーションをやってくれる.

おまけに,Genaille-Lucasには割り算バージョンもあるのだ.

さて,毎度こちらがあれこれネタを用意して見せてきた某教科学.
そろそろテレビのように見てる学生らにもパフォーマンスを出してもらいたい.
ということでこのGenaille-Lucas計算盤を彼らに設計してもらうことにした.

初めにネイピアの骨で計算棒というアイディアに触れてもらって
それを踏まえて一部のみ分かるようにしたGenaille-Lucas計算棒一覧を渡し,
これを完成してもらう作業を課した.
もちろん,使い方そのものも自分たちで考えてもらうことから始めた.
これまで散々筆算で掛け算をやってきただろうし,
おまけに直前にネイピアの骨で繰り上がりの仕組みを再確認したから,
さすがに皆仕組みまで自ら発見するだろうと思いきや,それがなかなか.
最後までこの仕組みを納得できないで
見た目の法則だけで完成させたものもちらほら.

学生らがいかに形式的にしか物事を見ないで過ごしているのか
それを改めて思い知った場面だった.

こどもたちはやり方を知りたいと思うと,それを学習するのです.

さあ,新年度開始.だから初年次演習も始まる.
過去2年やってみたが,何か地に足がついた講義になっている気がしない.
それは何より私自身,主張はあれど
それを実現するきちんとした基盤を持てないでいるからだ.
それでも明日から始まる.今回,もう少しだけ形を変えてみたい.
何か学生が自発的に「学び」に気付く方法は無いものかと.

で,再びふらふら歩いていたら,TEDの良いトークにぶつかった.
スガタ・ミトラの自己学習にまつわる新しい試み,だ.www.ted.com
そこから印象深い言葉を幾つか拾おう.
「こどもたちはやり方を知りたいと思うと,それを学習するのです.」
またこのトークではアーサー C.クラークと対談したシーンがあるのだが,
そこでのアーサーの言葉.
『機械で替えがきく教師は 替えるべきだ』
『子どもたちが興味を抱いたとき,そこに教育が生まれる』

それに続いて,
「これは間違いなく 人の役にたちますよ.
 子どもたちは やり方をすぐ理解して夢中になって面白いことを探しますからね.
 興味を持てれば教育を受けているのと同じことです.」
そしてトークの最後は次で締めくくられる.
教育は自己学習システムです.そこでは学習が創発的現象なのです.
実験的に証明するには数年かかるでしょうがやってみるつもりです.」

とりあえず,明日からの初年次ではこのトークの一部を紹介するつもりだ.
教えられることに慣れ過ぎた学生に,小さな変化を起こす導火線になればと.

統計とコンピュータも方法を大きく変えたいと思い,プロジェクト学習なんかも視野に入れて
(もちろんとてもそんな大がかりなことはできないけど)講義を考え直している.
その参考とした書物の中に次の言葉があった.
そうあって欲しいという教育者の願いが込められた言葉に思える.

「子どもは教えないと何も知らないかもしれません.
しかし大事なことはすでに知っている気もします.
人間は知識の入れ物ではありません.
その深いところに『高き心』や『知』を希求する魂や
『考える』ということでしか良き未来への道はないことを知っているかのような存在
と私には感じます.」

プロジェクト学習の基本と手法―課題解決力と論理的思考力が身につく

プロジェクト学習の基本と手法―課題解決力と論理的思考力が身につく

おっと,いつものあれももちろん.

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

動機づけの内在化への新たな挑戦―仮結果報告―

本年度前期の大失敗を踏まえ,後期からは
学習環境デザインと動機付けを相当意識して行った,
Scratchによるプログラミングの講義,その実験結果報告だ.
同じタイトルで過去2回投稿したのだけど,その結果報告(仮).tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp

最終課題は,「クローンまたはリスト(配列のこと)を使っていれば何を作っても良し」だった.
その先のベクトルを持った,目を見張る作品が幾つも見られたので紹介.

【数理部門】
257-14final
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いわゆるおまけをコンプリートするのに,何個お菓子を買わねばならないか,
そのシミュレーション.

291-14final
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いわゆる円周率の音楽.
ただ,よくある単音ではなくコードが自動的につくようになっているところがオリジナル.

【ゲーム部門】
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2048.完全オリジナルではないけど,Scratch作品を事細かに分析してついに作り上げた.

304-14final
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なんと,横スクロールゲームをオリジナルな方法で解決した作品.

320-14final
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大富豪を作ってしまった学生もいた.

258-14final
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いわゆるリズムゲーム.

【表現部門】
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魚の動きが,なんと創発的になっているんだよ.

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季節の移り変わり作品は幾つかあったけど,もっとも美しかった.

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ちょっとホラーっぽいけど,ジブリ的な作品.
徐々に明るくなっていく背景や,遠くに一瞬だけ現れる「シシ神」,
ひとりずつぼーっと現れる「こだま」やゆらゆら降ってくる光の玉.
地味なんだが味わいある作品になった.


さて,こうして最終作品からいくつか紹介したのだけど,
早期から自発的に試行錯誤を繰り返していた学生ほど到達度が高かったように思う.
もちろん時間制限があるので結果として表現できずに終わった学生も多いだろう.
また,今回のScratch,飛び道具なのでこれで反応がなければ為す術ナシ,
という背水の陣体勢でぶっ込んでみたのだけど,
BASICを使っていた時代からすると多少は学びへの動機付けに寄与したかもしれない.
ただ,自分の講義の悪い癖は,彼ら学ぶものにとって学びの到達点が見えにくいこと.
多くの場合放りっぱなしになる.次は真面目にルーブリック作りから準備かな.

この4月からの統計教育の講義,大きく方法を変えるつもりなのだが,
今のところ手詰まり感たっぷり.再び背水の陣で挑むことになりそうだ.

俄に勉強を始めた次第.

「主体的学び」につなげる評価と学習方法―カナダで実践されるICEモデル (主体的学びシリーズ―主体的学び研究所)

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あ,もちろんいつものあれもサブリミナルのように置いておくよ.

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