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k倍完全数探し―その後とちょっとしたCollatz-likeな問題

前回はk倍完全数を探すのにちょっと使えそうな評価式を紹介した.
tokidoki.hatenablog.jp

で,その後の数学同人Sigmaにて,5倍完全数探しが続いた.
評価式によれば少なくとも13以上の素因数が必要となるので,
13を含んだ形でヒューリスティックに探していく.
その際,素数の冪の約数和を素因数分解した一覧表があると便利だということになり,
まずはそれを20未満の素数の範囲で書き出す.
その際,活躍したのがCASIOが提供している素因数分解をしてくれるwebサイトだ.
keisan.casio.jp
というか,随分色々やってくれるんだね,ここ.さすが電卓の会社だ.
で,今自分でやってみて気付いたのだけど,
なんと,入力欄には計算式入れても素因数分解してくれるんだね.

さて前回同様,Nの約数和をS(N)と表す.13を素因数に持つのなら
 S(13)=2*7,S(132)=3*61,S(133)=22*5*7*17,...
といった表を使うのだけど,たとえば61のような大きな素因数を持つものは
予め考えないことにして,13もしくは133が因数にあると思って話を進める.
下の写真で赤丸が付いているものが使えるもの,というつもりだ.
一方で13を因数に持つのだから他のS(素数の冪)で13を因数に持つものを拾い出し,
できるだけ新しい素数が現れないものを組み合わせていく.
そんなこんなであれこれやっていたら漸く一つの組み合わせを見つける.
 211*35*53*73*133*17=796928461056000
う~ん,巨大だね.
f:id:okiraku894:20160622192640j:plain

さて,一つ見つけたのでwebで答え合わせ.
検索するともっとずいぶん小さいのがあるとのこと.
倍積完全数 - Wikipedia
5倍完全数はデカルトが1638年に見つけているのだそうだ.
まぁ,確かに上記のような方法であれば計算機がなくとも根気があれば見つけられそうだ.
しかしなんで我々が見つけたものがでかくなったのだろう,と振り返ってホワイトボードを見ると,
S(72)=57 が分解できることを忘れていたからだった.

さてさて,こんな表を見ていたら新たな問題を思いついた.
約数和S(N)をCollatz-likeに,つまり力学系的に見たらどうなるだろう,ということだ.
具体的には以下の操作を繰り返す.

  1. Nが偶数なら2冪の因数を取り除く.
  2. Nが奇数ならS(N)を求め,これを新たなNとする.

ちょっと手を動かしてみるとみな 1 に行き着くようだが,果たして.
本当に発散しないのだろうか?また有界でも周期軌道があるかもしれない.
例えば今回利用したS(N)の評価式から発散しないことが示され...ダメか.

あ,因みに,Collatzの3x+1問題はこちらで.
コラッツの問題 - Wikipedia
自分もこの問題に関するものを幾つか書いているのだけどね.
DSpace at 愛知教育大学: Collatzの3k+1予想に現れるフラクタルと記号力学
DSpace at 愛知教育大学: A fractal set associated with the Collatz problem
DSpace at 愛知教育大学: Interval Preserving Map Approximation of 3x + 1 Problem
DSpace at 愛知教育大学: The van der Corput Embedding of ax + b and its Interval Exchange Map Approximation

Van der Corput埋め込み(あるいはMonna map)のもとでCollatz写像の軌道を描いたもの↓
f:id:okiraku894:20160623150904g:plain

k倍完全数探しのためのちょっとした評価

自然数Nに対しその約数の和をS(N)と表すとき,S(N)=kNとなるNをk倍完全数という.
k=2のときがいわゆる完全数というやつだ.例えば

 6×2=1+2+3+6,28×2=1+2+4+7+14+28.

2倍完全数についてはオイラーによって偶数の完全数の形が分かっているのに対し,
奇数の2倍完全数についてはその有無すら未解決の問題となっている.

自分が顧問をしている数学同人Sigmaは,このところk倍完全数探しをしている.
そもそもはk≧3に対するk倍完全数の表示式はないものだろうか,
という問いから始まったことだ.
(ネットで探せば何らかの結果が得られるだろうが,
 それをしたらSigmaの活動の意味が無い.)

手計算や計算機片手に探していく.100万までなら,
 2倍:6,28,496,8128
 3倍:120,672(因みに今年2016は2番目の3倍完全数の約数和だそうだ.2016=672×3)
 4倍:30240,32760
が見つかる.
4倍完全数までは10進BASICですぐに見つかるのだが,5倍からが見つからない.
少なくとも100万までには無かった.
こうして各自がそれぞれのアプローチをしているわけだが,
自分もひとつ絡んでみようと,通勤の運転中にぼや~っと考えてみた.
で,素朴なんだがちょっと面白い評価ができたので紹介.
まぁ,どこかでは知られてはいるんだろうけど.

これを使えば,例えば5倍完全数ならば13以上の素数を因数に含んでいなければならない,
といった評価ができる.
もう一つ,ある程度の大きさのkに対する奇数のk倍完全数があるとすれば,
かなり大きな素因数を,それもかなり多数の素因数を含んでいなければならない,
といったことも覗わせてくれる.
f:id:okiraku894:20160621140148p:plain

芸は身を滅ぼす?(5) ― Lights-out も作ってみた

はい,シリーズ5つ目.
f:id:okiraku894:20160327144159p:plain
これは某若手代数の先生からの希望もあって作ってみた.
何でも教養向けの授業で取り扱うのだそうだ.
これはLights-out という数理パズル.頂点をクリックすると
その頂点自身とそれにつながっている頂点のon/offが同時に切り替わる.
そこで,例えば全部がoffの状態から全部がonの状態にできるか?
といったことを問題にするパズルだ.
数学的には頂点xおよびxにつながっている頂点の全てを Nx と書くことにすれば,
グラフの被覆 {Nx | x∈V} の部分被覆Γをうまくとれば,
各頂点 x∈V がΓで奇数回被覆されるものがとれるか?という問題に他ならない.

もちろん,使ってみた風の動画も撮ってみた.

で,flashが動くなら遊べます↓

うわぁ,もう今週から新年度ガイダンス始まるし,自由な時間もお終いか.

因みに過去のシリーズはこちら.
tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp

芸は身を滅ぼす?(4)

f:id:okiraku894:20160309175256p:plain:w400
早いもので,このシリーズ(シリーズなのか)も4つ目.
tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp
tokidoki.hatenablog.jp

今回は昨年オープンキャンパスで扱ったネタ
「3色カードの数理マジック」をScratch化した.
というより,Scratch自体に動画キャプチャー機能が付いていることに今日気付いたので,
嬉しくなって動画を撮ってみたかったという意味合いが強い.

作っておけば色々な場で使いまわせそうだし,
なにより初年次で早速やってみたいネタだ.
元は本年度卒業のある学生がmodに絡んだ不変量を考えているときに浮かんだらしい.
不変量とパスカルの三角形が自然に現れ,
さらに踏み込めばパスカル三角形に潜む自己相似性も出てくるという,
教材としてはなかなか優秀なネタなのだ.
もう,あちこちで使わせてもらうよ.

↓フラッシュが動く環境なら実際に実験できるよ↓

四度堆積からの誘い(2)

4月にこのネタで書いてから随分経ってしまった.
tokidoki.hatenablog.jp
このときはTymoczkoの論文を読んだゼミ生の卒論が元となって書いたものだったが,
それ以後も折に触れ(特に毎朝のピアノにて)四度堆積は色々と観察してきた.
四度堆積というのは五度圏を逆に回ることでもある.
そしてそれは数理音楽的にみると極々自然に下方倍音という発想に至るものでもある.
ongakuriron.rulez.jp

四度堆積を4つ重ねた和音,第二音を上げ下げするだけで面白いことになる,
ってのは世間的に色々知られてるのだろうか.
まず第二音を半音上げるとこれがずっと気になっているトリスタン和音.
これはclosed voicingにすればいわゆるhalf diminished m7♭5というやつ.
そしてそれはまたルートから見た下方倍音列の最初の4つでもある.
でも今回書きたいのはこのことではないので,これは次の機会にでも.
f:id:okiraku894:20151231211047p:plain:w300

もう一方の面白いこと.それは第二音を半音下げることだ.
実は四度堆積で遊んでいて,ふとトリスタンと反対に半音下げて弾いたところ,
それがとてもJazzyな響きになって,「おやっ!」となったことに始まる.
これをコードでどう書くのかわからないけど.*1
f:id:okiraku894:20151231213829p:plain:w300
これ,EとB♭でtritoneになっている.クロマティック12音音階を丁度半分にする,
緊張度の高い音程で,西洋古典音楽では扱い注意の響きだ.
diminishedやAugmentationなど,等間隔に音が並んだ和音は緊張度が高く感じられる,
というのはCook氏らの研究にも述べられている.
(しかしそういえばトリスタンもtritoneを含んでいるね.)
The Psychophysics of Harmony Perception:Harmony is a Three-Tone Phenomenon

で,これどこかに使われてるかな,って探してみると,
例えばBill EvansのWaltz for Debby.
一番最後のオシャレなopen voiceのmaj7thが3つ続いた後の不思議な和音.
その辺にある譜面を見るとこれはC7 altと書かれているわけだけど,
altered scaleからtension一つとってきて載っけた和音と言われても,何だか.
音楽文脈的には四度堆積の変形と見るのは間違いかもしれないが,
もはや三度堆積和音からの解釈は意味を成さないと高らかに謳っているようだ.
そしてついでに最後の和音は完全に四度堆積.
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そもそも四度堆積そのままでの名曲,Miles DavisのSo whatで
それは宣言されたのだろうけど.

So What by.Miles Davis

でも,この四度堆積の第二音を半音下げる,何かで聴いたよなぁ~
って弾いてたら,緊急地震速報がこれなんだね.
これは四度堆積5つの第三音を半音下げて出来ている.
たったこれだけなんだけど,この危機感はなに?

*1:後に調べたらこれは C7omit5add+9 と書かれて,「ジミヘンコード」と俗称がついていた.